何かに生かされていると思いなさい──五木寛之流「不安な日々」の乗り越えかた

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いつも帆を上げて準備しておく


思ったように日々や人生が前に進んでいかないとき、人は不安に陥ります。しかし、「意識を少しだけ変えることで、それは収まっていく」と五木さんは言います。

「何かに生かされていると思うと、心穏やかになれるのです。大きな流れが、いまそういう状況に自分を運んでいるのだと思える。成功も、見えない力が後ろから背中を押してくれたのだと思える」

逆に失敗したときは、「やるべきことは精一杯やった。自分が悪いのではない。他力がやるべきではないと考えたからこうなったのだと思えばいい」と言います。「そうすれば、成功したときに傲慢にならず、失敗してもクヨクヨウジウジせずに済むのだ」と。

もちろん、それは他力頼みで、自力では何もしなくていい、ということではありません。

「この道が進むべき道だと信じ、やっていくのだという気迫と努力がなければ、何事も完遂できません。エンジンのついていないヨットをイメージするといい。晴れの日もあれば、曇りの日もある。無風の日もあれば、嵐の日もある。でも、風はいつ吹くかわかりません。だから帆を上げて準備しておかないといけない。海を知らなければいけない。居眠りをせずに、水平線の彼方の風を期待して待っていないといけない。そして風が吹いたとき、ヨットは走ることができる。いい風で走らせてもらえる」

「他力というのは、一見、無責任に見えますが、実はそうではないのです。他力は自力の母である」と五木さんは言われていました。「他力を信じることで自力が生まれたり、他力を期待することで自力がより強くなったりするのです」と。

生きていれば、「どうしてオレばっかりこんな目に」ということもあるかもしれません。

「でも本当は、それでも人より恵まれていたと感謝すべきなのかもしれない。そういう気持ちから、静かな安定感が生まれてくるのです。怒ったり焦ったり嘆いたりする人は、やっぱりうまくはいきません。いいものは、人生に感謝している人がつかめるのです」

五木さんの言葉を敷衍すれば、コロナ禍で不安な日々でも、心穏やかに過ごす方法は、実はすぐ身近にあるということなのです。

連載:上阪徹の名言百出
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文=上阪 徹

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