「一人当たりの営業利益額を高めるには『経営力』と『社員力』が高いことが不可欠です。そうした視点で見ると、たとえランキングされた企業であっても、日本企業にはのんびりと構えている余裕はありません」と、指摘するのは2006年に『社員力革命』がベストセラーになった、ヘイグループ、ディレクターの綱島邦夫だ。綱島は同書で、「戦略経営」と対比する意味で「人材基盤経営」という言葉を掲げ、21世紀のグローバル時代に即した人材を基盤にする、中長期的視点に立った経営の必要性を提言した。
「残念ながら、日本企業の多くはいまだに人材基盤経営、特に経営リーダーの育成ができていない。それが日本と欧米企業の大きな差となって表れています」(綱島氏)
ここのところ、海外から社長を迎え入れる企業、経験豊富な外部経営者を社長として引き抜く企業が、特に業界トップクラスの企業で現れていることがそれを象徴している。
「経営リーダーの確保に失敗したと同時に、日本は1990年代に入ってからボトムアップの重要性を軽視し、トップダウンの経営に振れていってしまった。それを象徴するのが『ラーニング・オーガニゼーション』への意識の違いです」(綱島氏)
ラーニング・オーガニゼーションの「ラーニング」とは学習するという意味ではなく、企業そのものが変化に対応できるような文化を持つこと。それができる組織をラーニング・オーガニゼーションというのだが、日本ではその意味すら正確には普及しなかった。その結果、言われた課題をきっちりと実行する人材はいても、経営者が気づかないようなテーマを見つけて自主的に動く人材が日本には育っていない。
「日本ではグローバル人材とインターナショナル人材を混同してしまった。本当の意味でのグローバル人材は、英語が話せるとか異文化体験があるということではなく、世界を相手に効率的な戦略を考え、実現へのリーダーシップを発揮できる人材のことを指すのです。その点で言えば、たぶんこの10年を見たときに、日本の組織力や社員力は下がっている。経営者はよく、『社員に自分のメッセージが伝わっていない。もっとメッセージを発信しなくては』と言いますが、それは社員がトップに頼る傾向を強めるだけです。むしろ、トップがメッセージを発信しても無視されるくらいにならなくてはならない。それがラーニング・オーガニゼーションの求めるものです」(綱島氏)
自主的に行動できる人材を育ててこなかった日本と欧米で最も差が出るのが、エグゼキューション(実行力)である。ヘイグループによる「ベストリーダーシップ企業調査」によると「リーダーは何を大切にしているか」という項目では、ヘイ社が選定したグローバルトップ20企業の1位はエグゼキューション。戦略ではなく、実行できるかを欧米では重視している。しかし、日本企業の回答ではチームワークがトップで、エグゼキューションは上位10位の中にさえ入っていなかったという。「アイデアがよくても実行できないのは、エグゼキューションの考え方が日本には欠けているからです。戦略があれば実行しなければならないのに、です。それでは最初から成功するはずがありません」(綱島氏)
80年代の日本企業ができていた「人づくり」、ボトムアップ型の組織づくりに、いま一度立ち返ることが、日本が真に復活する近道であろう。