経済・社会

2020.08.07 06:00

米中緊迫「低烈度紛争」への準備が尖閣で始まっている


すなわち、日中間で本格的な戦闘に入らなくても、中国海軍と海上自衛隊が至近距離でにらみ合うような状態が長期間続くことになれば、日本のシーレーンに大きな影響が出かねない。日本の交易が打撃を受け、日本に対する海外からの投資が減ることになれば、日本国内から厭戦の声が出て、中国に譲歩しても仕方がないという展開になるだろうというわけだ。

日本も何もしていないわけではない。日中は7月30日に外相電話会談を行ったのに続き、翌31日には、外務省の滝崎成樹アジア大洋州局長と中国外務省の洪亮・辺境海洋事務司長がテレビ会議方式で会談した。いずれも尖閣諸島周辺で起きている事態が取り上げられたという。

海上保安庁や海上自衛隊はこの海域に投入する巡視船や護衛艦の建造を急いでいる。EEZ内での不法行為を取り締まる法整備の検討も始まっているという。果たして、こうした一連の努力が実を結び、中国の脅威の増大を食い止めることができるかどうかは、まだわからない。

こうしたなか、米国がむしろ、積極的な姿勢をみせている。在日米軍のシュナイダー司令官は7月29日、インターネットを使った記者会見で、尖閣周辺での中国公船や漁船の活動について「日本政府の状況把握を支援するため、ISR(情報収集・警戒監視・偵察)能力を提供する」と語った。日米関係筋によれば、東シナ海や南シナ海で日本の海上保安庁と米沿岸警備隊が協力して活動する案も日米間で検討されているという。

別の日本政府関係者は「尖閣諸島にも日米安保条約を適用すると発言してもらうために四苦八苦したオバマ前政権と、全く対照的な動きだ」と語る。「米国の動きはもちろんありがたいが、米国が余り前に出すぎると、逆に緊張が高まらないかという不安も出てくる」とも述べた。

尖閣諸島で近い将来、何が起きるのか。今はまだ、誰も見通せない。

文=牧野愛博

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