「自戒」をエネルギーに
バルセロナ市の都市政策とその理念、またデジタルとフィジカルの技術を融合させ、「市民」主導のスマートシティの実現を目指すアプローチは、1992年のバルセロナ・オリンピックや、2004年の世界文化フォーラム開催という巨大イベントと、その後に起こった社会的な反動とその自戒とが大きな背景となっている。
当時、バルセロナは世界的なビッグイベントを契機として、地方都市から国際都市へとその都市の存在感を高め、観光産業を始め、非常に経済的にも大きな飛躍を実現した。しかし、オーバーツーリズム、大気汚染、またその後の経済的不況など、その弊害も極めて深刻なものであった。
何より、当時の行きすぎたインバウンド向けの都市整備事業によって、「町を外から来る人たちに譲り渡してしまった」という苦い経験が市民の中に残り続けた。この経験が、その後、バルセロナ市がその都市運営の方針を見直す大きなきっかけとなっているのだ。
バルセロナにとって「スマートシティ」とはどんな都市を指すのだろうか?
バルセロナ都市生態学庁ディレクターであるジョゼップ・ボイガス氏は、「市民が自分たちが住む都市の価値に気づいていること、そしてその価値を高めるためにお互いに知恵を活かし合うことが出来る都市」だという。
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バルセロナ市内(撮影=鷲尾和彦)
「スマートシティとは、異次元の街を作ることでも、経済的な要請に応えて都市を作り変えてしまうことでもない。そこに暮らす市民を中心にしなければ、都市の持続性はないということを私たちは過去の経験を通して学んだのです。都市がスマートになるというのは、市民自身がスマートになることなのです」(ボイガス氏)
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鷲尾和彦◎博報堂生活総合研究所「生活圏2050」プロジェクトリーダー。戦略コンサルティング、クリエイティブ・ディレクション、新規事業開発など幅広い専門性を通して、地方自治体や産業界とのプロジェクトに数多く従事。主な著書に『共感ブランディング』(講談社)、『アルスエレクトロニカの挑戦』(学芸出版社)等。