ビジネス

2020.08.07

黒石奈央子が手がけるAmeri、「泥臭い6年間」と「したたかな戦略」


D2Cブランドにおける「SNS活用の先駆者」とされる黒石だが、「SNSだけ頑張ったら売れるのがD2Cブランドではない」と強調する。その裏には、前職時代に培ったブランドの舵取りを見極めるセンスと、確固たる戦略があるからだ。

「前職は短期間で多くのブランドを立ち上げる社風で、働きながら数多くのブランドを眺めることができたんです。そのなかには、売れるブランドも売れないブランドもある。独立してからは、自分が学んできた“格好いいブランド”の特徴を投影するようにしました。また、ブランド名には『3文字の法則』があると分析したので、3文字で覚えやすく、50音順で最初にくる名前がいいなと考え、自分の好きなアメリカにひっかけてAmeriにしました」

黒石が独立したときからこだわり、Ameriの人気を支えているのが「バランス」だ。価格と生地の質、機能性とデザイン性、シンプルさとラグジュアリーさの“ちょうどいいところ”を意識している。

「昔から『おしゃれは我慢』と言われていますが、それが楽できれば最高じゃないですか。プチプラを卒業したい20〜30代の女性が着たくなるような『シンプルで機能的だけど、ちょっとエッジの効いた服』。それがAmeriのコンセプトです」

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Ameriがユニークなのは、売れ筋の商品があったとしても再販はせず、常に新しいデザインを生み出し続けることをポリシーとしている点だ。黒石はその理由を、「数年で人気が低迷するブランドの共通項として、売れ筋に左右され、同じものを作り続けてしまうことがある。熱量の高いファンは敏感なので、2年連続は喜ばれるかもしれませんが、3年以上続くと飽きられ、離れてしまうリスクがある」と語る。

リスクは対顧客だけではない。ブランドが売れ筋に依存すると、内部で新しいデザインを生み出すアンテナが鈍っていき、いずれ「画期的なデザインが生み出せないまま経営難に陥っていく」とも見ている。

「私がファッション業界に入ったころは、『生存戦略を考えないブランドは5年で衰退する』が定説でした。しかし新興D2Cブランドが次々に生まれてくる昨今、そのサイクルは早まっているように思います。ライバルが増えても、不況に喘ごうと、いかに新しい価値観を提示し続けるかが、ファンを惹きつけるために必要な戦略なのではないでしょうか」
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文=半蔵門太郎 写真=小田駿一 リタッチ=上住真司

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