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2020.08.07

Go Toキャンペーンの現場 飛騨高山で感じた「新しい日常」への挑戦

岐阜県高山市/Hiroshi Higuchi/Getty Images

少し前までは、新型コロナウイルスと共存する平穏な「新たな日常(New normal)」が近いうちに訪れるのではないかと思っていた。しかし、秋以降と予想されていたコロナ禍の第2波が、皮肉にも「Go Toキャンペーン」の開始とほぼ重なり合うかたちで広がりつつあり、新たな日常も考えていたものとは異なるものになりそうな気がする。

そんななか、7月末に、私は自分がダイレクターをつとめるアートイベントに参加するため、岐阜県飛騨地方の高山市に出かけた。

アートイベントやワークショップなどの実施については、コロナ禍への対応で、参加人数を減らし、ソーシャルディスタンシングの確保はもちろん、会場の換気、参加者1人1人の体調管理、消毒の徹底など、さまざまな指針に則った予防策を実施することになっている。

高山市でのこのアートイベントも、本来ならば5月初頭に実施する予定だったものが、再度準備を整えるために延期となり、ようやく開催の運びとなったのだった。

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そのアートイベント開催予定日の1週間程前の夕方、私の携帯が鳴った。

「今日、Kさんの息子がPCR検査を受けた。万が一、陽性の場合、ご家族であるKさんも濃厚接触者として検査を受けることになり、陽性の場合は、一緒に仕事をしているわれわれ全員が、濃厚接触者候補となるので、それを想定しておいてください」と電話の向こうの声は告げた。

Kさんはフリーの演出家でありプロデューサーで、ここ数年は県の文化事業やアートイベントなどの仕事でご一緒しており、つい数日前も顔を合わせていたため、私も濃厚接触者となる可能性もあった。それは、あまりに突然のことだったので、私は、一瞬、言葉を失った。

正直言って、こんな身近に「感染」が迫っていたということに愕然とした。そして頭の中をめぐったのは、「もし私も濃厚接触者となった場合、1週間後のアートイベントはどうなるのだろう? 中止? 少なくとも私は参加できないかも」「同居している私の家族は?」「この数日間、仕事で会った人全員が同様のことになるの?」というさまざまな疑問だった。

ネガティヴな考えが頭の中をぐるぐるとめぐったが、まずはKさんの息子の結果次第なのだからということで、その思考を一旦ストップさせた。

翌朝、Kさんの息子は「陰性」だったという連絡が来た。その時は、思わず「よかった!」と大声で叫んでしまった。でも、たまたま私や私のまわりの人々は大丈夫だっただけで、どこかに存在する陽性者となった人の気持ちや、クラスター化もこんなことから起こっていくのだなと考えると、なんとも言いようのない「怖さ」を感じた。

その怖さは、暗い気持ちに直結する。これではいけないと思い直し、なんとか明るい気持ちになろうと、自分を奮い立たせて、高山市へ出かける準備をはじめた。
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文=古田菜穂子

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