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2020.08.07

Go Toキャンペーンの現場 飛騨高山で感じた「新しい日常」への挑戦

岐阜県高山市/Hiroshi Higuchi/Getty Images


岐阜市内では2月以来のライブも


高山市でのアートイベントを無事終えて帰宅した翌日、岐阜市内の県民文化ホールで、ひさしぶりに若者向けのライブコンサートが行われ、私はホールの感染対策を確認する関係者として参加した。

都会のクラブやライブハウスでの感染拡大で、ずっと肩身の狭い想いをしてきたミュージシャンやアーティストへの救済と、新しい安心、安全な音楽ライブのあり方への挑戦ということで、こちらもさまざまな感染予防対策がとられての開催だった。

舞台と観客の間には巨大アクリルのつい立て(パーテーション)が置かれ、DJブースにもアクリル、演者間の距離は2メートル、マイクも個人専用。観客にはもちろん入口での検温や連絡先などの記入を依頼し、演奏中のスタンディングや声援、歌唱などの禁止を、参加アーティスト自身の手書きパネルで呼びかけてもらっていた。

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アーティストの前にはパーテーションが置かれ、観客同士も距離を置き声援や歌唱などを控えている。

会場のロビー、入場口近くに置かれたアーティストの写真付きの手書きバネルには、「声を出さなくたって、飛び跳ねなくたって、音を楽しめば音楽!」「こんな時だからこそ、心をひとつに、みんなで楽しんで明日への活力に」「心で聴くLIVE」など、アーティストの想いがこもった言葉の数々が並んでおり、一連のパネルとともに記念写真を撮る観客の姿も多くあった。

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予防対策の呼びかけとアーティストの想いがつづられた手書きパネルを記念撮影する観客

実は、このコンサートの企画者かつプロデューサーは、前述のKさんだった。もし、Kさんの息子が陽性だった場合、Kさんは、息子さんへの心配だけでなく、コンサートの中止にも追い込まれていたかもしれなかったのだ。

そんなKさんの気持ちを考えると、身につまされる想いがした。だからこそKさんは、最大限の予防対策に加えて、観客だけでなく参加アーティストはもちろん、コンサートに関わる全ての人の「心に届く」本物のメッセージを届けようと考えたのだろう。

ほぼ全員のアーティストが、2月以来のライブパフォーマンスということで、終了後は、出演者も観客も、みな感極まっていた。Kさんは「さまざまな実験を通して、こうすれば安心、安全にできるという事例をこの岐阜から示し、どんどん前向きに挑戦していきたい」と心底嬉しそうに語ってくれた。

いまのような状況下で、観光業界も音楽業界も、日々、挑戦しているという意味では同じだと思った。高山の女将も、Kさんも、活動の舞台は違っても、さまざまな新しい取組みへのトライ&エラーを繰り返すなかで、最善の方法を探っている。2人に共通していたのが「手書きのメッセージ」だったということが興味深かった。

人と人とが実際に距離をとりながらも、心の距離を縮め、感動したり、喜び合ったりの本物の「おもてなし」の交換をすることで、出来る限り正しい情報を伝え、みなが明るく元気になってほしいという願いの実現に向けて頑張ること。それは、すべての暮らしのなかで、すべての産業や仕事のなかでも言えることだ。

まだまだ不自由なことは続くだろうが、より良い手法を見いだすためには、多少とも危険と隣合わせであってもチャレンジしていくしかない。ふと、以前読んだ「事実がたとえわかっていなくとも、とにかく前進することだ。前進し、行動している間に、事実はわかってくるものだ」という自動車王のヘンリー・フォードの言葉を思い出した。

どんな状況にあっても、どこにいても、行動し、前進し続けていけば、きっとその先に「光」はある。旅も暮らしも、そんなチャレンジだ。安心、安全、予防を自らに厳しく戒めながらも、互いの「おもてなし」の心を忘れなければ、きっとまた旅に出られる日も来るにちがいない。その日が1日でも早く来てほしいと願っている。

連載:Enjoy the GAP! -日本を世界に伝える旅
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文=古田菜穂子

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