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シネマの女は最後に微笑む

左:トニ・コレット、右:キャメロン・ディアス(Eduardo Parra/Getty Images)

世の中の大半の人が持っていると言われるコンプレックス、劣等感。容姿や性格からさまざまな能力、家柄、住んでいる場所、持ち物まで、この感情は他人と自分を比べることから始まる。

身近に比較対象がいる場合は、うまく行けば健全な競合心となるが、強い嫉妬や自己否定の感情にとらわれることもあるだろう。

兄弟姉妹間のコンプレックスを、カイン・コンプレックスと言う。旧約聖書のアダムとイヴの息子である兄カインが、弟アベルへの嫉妬心と憎しみを募らせ、ついに殺してしまうという神話が元になっている。

特に年の近い兄弟姉妹の場合は、幼少期から何かと比較される。親の承認を争って求めた子供の頃の感情を引きずったことが、成年後の人間関係に影響することもあるようだ。

今回取り上げるのは、『イン・ハー・シューズ』(カーティス・ハンソン監督、2005)。対照的な二人の姉妹がある時決裂したことからそれぞれの問題に向き合いつつ、これまでと違った生き方を模索していくヒューマンドラマである。

弁護士事務所に勤務するエリートだが容姿に自信がなく、履きもしない大量のブランド靴のコレクションだけが癒しの姉のローズ(トニ・コレット)。逆に容姿が唯一の取り柄で一晩の男には不自由しないが、仕事は何をやっても続かず難読症という学習障害を抱える妹のマギー(キャメロン・ディアス)。

タイトルの「イン・ハー・シューズ」とは「彼女の靴で」、つまり「彼女の立場になって」を意味する。しかし2人は「自分にぴったりの靴」さえ見つけられない状況だ。

ローズのハイヒールを黙って借りたマギーがヒールを折ってしまい、ガムでくっつけただけのそれを知らずにマギーが履く場面がある。踵の高いゴージャスな靴はここでは虚飾の象徴であり、2人のどちらにも必要ないのだが、そのことがわかるのはずっと後になってからだ。

静のローズ、動のマギー。正反対の姉妹


ドラマ前半では、「自分に合う靴」が見つけられない姉妹それぞれの抱えているコンプレックスが、最悪のかたちで現れる。

実家を追い出され、姉のところに居候するマギー。ルックスと愛嬌だけでMTVのオーディションを受けて失敗し、ペットショップで働き出すが何かと不運が重なって不貞腐れる。ローズの方は出張中に、これから本格的に付き合いたいと思っていたイケメンの上司ジムにあっさり裏切られる。つまりジムはローズにふさわしい相手ではなかったということなのだが、そこにマギーが絡んでいただけに厄介な事件に発展。

マギーを演じるキャメロン・ディアスのスタイルの良さが強調されるシーンが多く、これだけ容姿に自信が持てれば最大限有効に使いたくなるのも無理はないと思わされるが、よく考えればそれが姉にはない唯一のものだからこそ、誇示しないではいられないのだろう。

ローズの持っているジミー・チュウの靴だって私の方がずっと似合う。ローズの上司のゴージャスな男だって私の方がずっと似合う。なのに、どうして私は何も手にすることができないのか。マギーの姉へのコンプレックスは、自分への強い苛立ちの裏返しだ。

一方、マギーはローズの容姿にあからさまな嫉妬心を見せずに姉然と振る舞うが、ジムと一夜を共にしただけで「この男を逃すまい」と執着心をたぎらせるところや、己の一喜一憂を親友に報告する様子から、外面を武装しているだけで中身は大人になりきれていないとわかる。

文=大野 左紀子

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