静のローズ、動のマギー。堅物の姉、ちゃらんぽらんの妹。正反対の二人はかなり戯画化して描かれる。同じ環境に育ったのだから共通点もあるはずだが、ローズにしてみればマギーのだらしなさが許せないし、マギーはローズのお説教が鬱陶しい。近い関係だからこそ遠慮もなく、ささいなことから喧嘩に発展しがちなのは、姉や妹をもっている人にはよくわかるだろう。
彼女たちが唯一一致するのは、継母の悪口だ。この継母は典型的な憎まれキャラであり父親は今ひとつ押し出しが弱いため、ローズとマギーの仲介になる人物が周囲にいない。
その役割を結果的に果たすのが、姉妹が長らく会っていなかった祖母エラ(シャーリー・マクレーン)。ローズと決裂し行き場をなくしたマギーがエラを訪ねてマイアミにある老人ホームにやってくる中盤から、登場人物たちの複雑な内面が見え隠れするようになる。
祖母エラが姉妹にもたらした気づき
明るい陽光の下、広々した緑の多い敷地に建物が点在する、リッチな老人たちのための施設はいかにも居心地が良さそうだ。老人たちがいずれも好人物に描かれている点は、かなりファンタジーが入っていると言えよう。
しかしそこに自分の住まいをもち、同世代の世話係をしながら暮らしているエラの人物造形は面白い。突然現れた事情のよくわからない孫娘に対する、抑制された言葉の選択や振る舞いに滲むのは、人生経験を積んだ女性の洞察力。シャーリー・マクレーンの、チラッと投げかける眼差しや呑み込んだため息で相手との距離を測る演技がすばらしい。
興味深いのは、エラが単なる良くできた社交的なおばあちゃんではなく、長年心の奥に苦しみや葛藤を秘めてきたことが、次第に明らかにされていく点だ。エラ、ローズ、マギーの関係を通して、それまで言及されなかった姉妹の母親の姿が浮かび上がり、ドラマに奥行きが生まれている。
マギーがエラから促されるのは、彼女がこれまで一番苦手としてきた労働を通して、周囲との人間関係を地道に構築していくことだ。盲目の寝たきり老人である元教授の求めに応じたマギーが、難読症を克服していくエピソードは胸に沁みる。肯定され褒められることが人をいかに前向きにさせるかが、端的に描かれている。
一方、人間関係に疲れ果てて休暇をとったローズにも変化が訪れる。それまで人間だけを相手にしていた彼女が、ひょんなことから犬の散歩係という仕事を請け負うのが面白い。マギーが老人ホームで人間相手の仕事を始めたのと好対照だ。
最初は慣れないものの、預かった犬たちのリードを束ねながら、フィラデルフィア美術館の広い階段を駆け上がっていくシーンは、開放感に満ちている。
そんなローズに近づいてくる弁護士事務所の同僚サイモンがめっぽう「いい奴」なのはまあお約束だが、彼との交流を通してキリキリしていたローズに笑顔が戻ってくるのは、見ていて気持ち良い。
ローズとマギーが対面し心の武装を解くまでには、それぞれが越えるべきもう一山が用意されている。「その靴は本当に自分の足に合う自分だけの靴なのか」という疑問の確認と微調整には、やはりそれなりの時間がかかるのだ。
連載:シネマの女は最後に微笑む
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