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朝日新聞編集委員(朝鮮半島、米朝・日米関係担当)


米側は、中国が報復として四川省成都の米総領事館閉鎖を命じることも予測していた。中国も新型コロナへのスパイ事件が契機になったと理解するとみていたからだ。新型コロナを「武漢ウイルス」と呼び、「中国犯人説」を唱える米国は、その根拠となる情報を、武漢の米総領事館に収集させていた。本来なら、中国はそこの閉鎖を狙うはずだった。だが、武漢の米総領事館は新型コロナの感染拡大を受けて1月に臨時閉鎖を命じるなど、すでに機能が大幅に低下していた。このため、米側は、中国が武漢総領事館の代わりに、チベット情報の収集にあたっている成都の米総領事館の閉鎖を命じてくるだろうと予測していたという。

米国は中国に、北京の大使館のほか、上海や広州、香港、瀋陽にも総領事館を置いている。中国も米国のサンフランシスコやロサンゼルス、ニューヨークなどに総領事館を持っている。双方は、経済の混乱や外交危機にまで至る事態を避けるため、大使館や、上海・香港・ニューヨークといった経済中心地にある総領事館の閉鎖は避けるだろう。ただ、米国は中国が米本土で組織的にスパイ活動を行っていると分析しており、今後も中国総領事館の閉鎖を命じる可能性はある。

米国によるブリーフィングを受けた日本側は、「米国による総領事館閉鎖という措置はやむを得ないものだった」と納得したという。そして別の日米関係筋はこう言った。「呑気に納得している場合ではない。事件は、ヒューストンだけで起きているのではない。特に日本人は情報の管理が甘すぎる。ファイブアイズ(英、米、豪、カナダ、ニュージーランドの英語圏5カ国)とは比べものにならない」

日本の情報管理を巡っては従来から、「スパイ防止法がない」「軍事法廷がない」などという指摘が飛び交ってきた。

ただ、ファイブアイズの政府関係者によれば、日本の官僚は機密を守るというモラルは低くないものの、もっと根源的な問題があるという。ファイブアイズが情報の重要性を「国家の安全保障を脅かすかどうか」という点で判断するのに対し、日本の官僚は「他省庁と情報を共有したくない」「首相官邸や与党政治家に怒られたくない」という判断で情報を守ろうとするからだ。

日本の場合、関係省庁が集まった内閣合同情報会議にトップシークレットの情報を提供しなかったり、官邸や与党幹部が喜ぶ場合には積極的に情報をリークしたりする。最近もある大使人事を巡って情報が流れたが、政府関係者によれば、首相官邸と外務省が率先してリークしていたという。

この図式を日中関係に当てはめて考えれば、首相官邸が定めた対中国戦略を称賛する結果になる情報は、リークされやすいということになる。だが、ご承知の通り、安倍官邸の対中戦略は対話に触れたり、対決に流れたり、迷走している。となれば、ファイブアイズが判断する「国家の安全保障を脅かすかどうか」などという基準はどこかに吹き飛んでしまうだろう。

2014年に設置された内閣人事局の弊害はこんなところにも顔を出しているのだ。

文=牧野愛博

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