欧州連合(EU)では先日、新型コロナウイルス危機を乗り切るための復興基金案をめぐる交渉が行われたが、ポピュリストや支出を渋る頑固者を含む27加盟国のリーダーの意見をまとめるまでに90時間かかった。
そんな中、長きに渡ってリーダーとして外交手腕を磨いてきた女性が3人いる。ドイツのアンゲラ・メルケル首相、欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長、欧州中央銀行のクリスティーヌ・ラガルド総裁だ。この3者を合わせた力は強大だ。
この雑多な群衆を7500億ユーロ(約93兆5000億円)の復興基金案で合意させる上では、3人のリーダーシップスキルが大きな役割を果たしたことだろう。ロイターは、この合意を「70年近くにわたる欧州統合の歴史で前代未聞の結束」と評した。
これはEUの奇跡であり、理想像でもある。自らの連合が揺らいでいる英国は、EUから離脱するのではなく学んだ方がよいのではないだろうか。
グリーン
EUは、将来ビジョンの中心に環境を据えてきた。フォンデアライエン委員長は就任以来、この方針を公言しており、女性エコノミストらも賛同している。
フォンデアライエン委員長は「欧州の復興はグリーンになる。新予算は、『欧州グリーン・ディール』の原動力となり、欧州経済のデジタル化を加速させる」と表明。欧州理事会のシャルル・ミシェル議長は「われわれの予算が気候の目標と結びつけられたのは、欧州史上初めてだ」と指摘した。
法の遵守
さらにミシェル議長は、法による支配の尊重が「予算支出の絶対的基準」となったのも初めてだとした。欧州はこれまで、“家庭内ルール”に抗うハンガリーやポーランドの強権者らに立ち向かってきた。今回の合意で欧州は、民主主義を尊重しない子どもには金を出さないという措置が取れるようになる。
協調
意見の違いを乗り越えて妥協点を見出すのは非常に難しいが、その喫緊性は増している。欧州の行く末は、そうした現実にかかっている。ラガルド総裁はツイッターへの投稿で「新型コロナウイルスによる経済的影響に対処するには、協働するしかない。欧州理事会による本日の合意は、EUが最も必要とされる時には欧州の人々を支援するべく団結できることを示した」と表明。
メルケル首相はエマニュエル・マクロン仏大統領との共同記者会見で「これは容易でなかく、何日間もかかった」と認めるとともに、「また、私たちがそれぞれ別の立場にあることも示された。しかし私にとって大事なのは、私たちが最終的に合意に達し、皆が決定内容に納得していることだ」と述べた。
夏休みの旅行を計画している家族も多いだろうが、家庭内で話し合いを持つ際には、EUでの交渉と比べて険悪さが半分になる一方で、同じくらい実り多い結果となることを願う。