アートは贅沢品なのか? パンデミックが教えてくれた芸術の価値

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コロナショック以降、不安と恐怖を感じながら粛々と暮らす日々が続いている。そんななかで、音楽をはじめとする芸術、文化、エンターテインメントに癒され、元気づけられた人は多いのではないだろうか。

日本では戦中戦後にかけて、「アートなんて贅沢だ! そんなものは衣食住が揃ってからにしろ」という風潮があった。現在でも、私の暮らすイギリスや欧州諸国と比べると、まだまだ「アートは趣味の延長」程度にしか認識されていないと感じることもある。

しかし、本当にそうなのか。アートは経済が安定しているときだけに享受することができる贅沢品なのだろうか。

「対人関係のストレス」が激減


一般的に、経済が減速し、失業率が上昇すると自殺者が増えるといわれている。日本では緊急事態宣言前、コロナ感染による死者数よりロックダウンで経済活動が止まることで自殺者が増えるのではという懸念が議論された。しかし、事実上のロックダウン真っ只中だった4月、5月、日本の自殺者数は前年比で約20%も減少した。

1897年に出版された「自殺論」で著者エミール・デュルケームが述べているように、“自殺”とは不幸で説明できるほど単純なものではない。実際、国民の多くが職を失った第二次対戦中も、東日本大震災の起きた2011年も、自殺者数は減少した事実がある。

今回の自殺者数減少については、まず在宅ワークが増えたことで「対人関係のストレス」が激減したことが容易に想像できる。体調が悪くてもオフィスで元気に振る舞う必要はないし、好きなときに洗濯機を回すなど、仕事と家事の両立もしやすい。満員電車での通勤もなく、自宅で楽な服装で快適に働けることも精神的ストレスを激減させている。


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もちろん、狭い空間で四六時中一緒であれば、ルームメイトや家族、夫婦間の不和に繋がることもあるだろう。また、休校中の子どものオンライン学習に付き合ったり、手のかかる幼児の面倒を見たり……といった在宅ワークでは、仕事のパフォーマンスはオフィスの約25%にとどまるというデータもある。

しかし、自宅では自分にとって心地の良い環境で、好きな音楽を聴きながら、ときにはストレッチだってしながら仕事ができる。通勤がなくなった分の時間を、趣味の時間にあてるのもいいだろう。こうした自由は、我々の精神を整え、心を楽にし、日々の生活に活力を与えてくれるはずだ。

かつてピカソは「芸術は日々の生活のほこりを、魂から洗い流してくれる」と言った。シェークスピアも「音楽が何のために存在するかさえご存知ないらしい。勉強や日々の仕事が終わった後、疲れた人の心を慰め元気づけるために音楽はあるのではないか?」という言葉を残している。
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文=平井元喜

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