差別的な歴史的人物を英雄視する銅像が倒され、それらの人物の名前がついた公共施設の名称が変更され、奴隷制の正当性を意味する南部連合旗の使用禁止が可決された。
ついでに、ホワイトハウス近くの交差点「White House Plaza」が、「Black Lives Matter Plaza」と改名され、主要な街の大通りには「Black Lives Matter」と黄色いボールド文字が描かれている。
半世紀のあいだ、アメリカのマイノリティーたちが訴えても訴えても前進しなかった意識改革が、この2カ月であっという間に広がっているように思える。まるで、働き方改革と叫ばれてもなんの前進もなかった社会が、コロナ禍によって急激に進みだしているように。
デモ参加者に暴力で圧力をかけるトランプ大統領
その意識改革が、はっきりとビジュアル化されたのが、オレゴン州ポートランドの街で繰り広げられた、内戦状態と言っても過言ではない現状だった。
トランプ大統領はポートランドで続いているBlack Lives Matterの非暴力のデモに対し、ワシントンDCでもしたように、どこの警察なのか、どこに属する兵士なのかもわからない部隊を用い、暴力で圧力をかけた。
今回トランプ大統領が使った秘密警察のような部隊は、国土安全保障省(DHS)などから出向した連邦警察だった。
もともと国土安全保障省とは、911のテロ事件が勃発した際に、ブッシュ政権下で組織された政府機関であり、国外のテロ組織からアメリカを守る目的で作られた。つまり、国内の暴動を取り締まるために設立された組織ではなく、まして市民活動を取り締まる警察などではないのだ。
彼らはDHSの目的のひとつである「公共施設を守る」業務を盾に、各市の警察の権限を無視し、デモ参加者たちを取り締まった。
だが実際に彼らがしたのは、公共施設から遠く離れた場所で、市民を束縛したり催涙ガスを放ったりしたことだ。また正当な理由や逮捕状なく、デモの参加者を逮捕するという行動も目撃された。
世界に対して自由の価値を訴えてきたアメリカが、治安警察のようなものを用いて国民の自由に圧力をかけていく。トランプ大統領は自らに「独裁者」のレッテルを貼ったも同然だ。
警察の暴力と戦うママ&パパの壁
Black Lives Matterのデモが始まってから2カ月が経ち、ポートランドでは今までにないデモの光景が現れてきた。トランプ政権の対応に反対する「ママの壁(Wall of Moms)」が連邦警察の前に現れ、デモ参加者を守るべく人の壁を作ったのだ。
その次の日には、ママたちを援護するため「パパの壁(Wall of Dads)」が芝生のブロワー(送風機)を携えて現れた。さらに「元軍人の壁(Wall of Vets)」も現れ、連邦警察に抗議するデモへと発展した。
その抗議デモに参加している人々の多くは白人たちだ。 そんな一般の母親や父親に対してはさすがに暴力行為を行わないだろうという思惑も見事に裏切られ、デモ隊をめがけて暴力が振るわれた。
ポートランド市長も、武力で圧力をかけるトランプ政権に反対するため抗議デモに参加し、催涙ガスを浴びせられた。 昔テレビで見たどこかの国の内戦を思い出すような光景が、現代のアメリカで繰り広げられている。ポートランドだけではない。トランプ大統領は、シカゴ等の大きな街へ独自の判断で連邦警察を送ると宣言している。