受信トレイを復活。フィードバックや転送で溢れかえるメールを削減

マチルダ・コリン(左)、ローレン・ぺリン(右)

昨年上場を果たしたスラックをはじめ多くの企業がeメールは既にその役目を終えたと主張している。だが、フロント創業者の2人は、これに同調しない。

マチルダ・コリン(30)は創業134年の老舗船舶ブローカー、シンプソン・スペンス・アンド・ヤングの幹部と会うため、ロンドン塔を見渡せるビルにやってきたが、リュックサックを背負ったサンフランシスコ風の出で立ちはやや場違いだったかもしないと不安になった。

彼女はスタートアップ企業フロントのCEOであり、eメールの標準的な受信トレイを共有ワークスペースに変えることのできるソフトウェアの売り込みにやってきた。このソフトウェアは次々に舞い込んでくる世界中の貨物船の見積もり依頼に対応する物流チームにうってつけの商品だった。

コリンの不安は良い意味で裏切られ、シンプソン・スペンス・アンド・ヤングは彼女の話にすぐに食いついてきた。この会社は事前に従業員にアンケート調査を行い、社内では前世紀の電信システムに合わせたコミュニケーション・ツールがいまでも使われており、抜本的な見直しが不可欠であることを理解していた。

フロントが登場するまでの間、顧客からの問い合わせを受けた企業では、それに回答するため、社員間でメールのコピーやフィードバックのフォワードが繰り返され、メールが溢れかえることも少なくなかった。だが、フロントを導入することで、ユーザーは共有メールにアクセスできるようになった。共有メールでは受信したメッセージを随時更新することが可能になり、1通のメールも送ることなく、受信したメッセージにノートを付け加え、関係する担当者をタグ付けし、回答を作成することができるようになった。

eメールに強く依存している古くからの企業の多くがフロントのサービスを必要としていることをコリンは理解している。彼女はこう語る。「新たなツールを導入すると、あらゆることが変わることになります」。それよりも、手持ちのツールを改良するほうが良い。フロントのサービスを利用しているのは伝統的企業に留まらない。新興IT企業であるショッピファイやストライプなどとも契約し、フロントの顧客数は創業からわずか7年間で5500社に達した。

コリンとペリンが最終的に目指しているのは、Gメールとアウトルックの牙城を崩し、フロントと繋がる生産性アプリを増やし、共有メールを導入企業の中心的ハブに育て上げることだ。

マチルダ・コリン、ローレン・ぺリン◎フロント共同創業者。2013年パリのスタートアップ・スタジオであるeファウンダーズを通じて出会う。パリのHEC経営大学院で数学と企業経営を学んだコリンは就職先の企業カルチャーに幻滅し、退職。エンジニアのペリンはフランスのオンライン・ラジオ・サービス企業で4年近くにわたりCTOを務めた。

文=アレックス・コンラッド 写真=エリック・ミレット 翻訳=松永宏昭

この記事は 「Forbes JAPAN 6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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