2019年、サウジアラビアから輸出された原油の24%が中国に行き着いた。国有石油会社サウジアラムコ(Saudi Aramco)は中国への原油販売により、ブレント原油平均価格(1バレルあたり64.28ドル、約6800円)換算で約400億ドル(約4兆2320億円)の売上を得たことになる。これだけでアラムコの2019年の総売上の12%を占めるが、ここにさらに、中国向けに販売された石油製品や、アラムコが中国とサウジアラビアの両方で多数操業する、精製・石油化学関連の中国企業との合弁事業の売上が加わる。
端的に言って、アラムコの売上に占める中国の割合は非常に高い。さらにアラムコは、サウジアラビアの国家予算の60%を賄っている。そのためサウジ王室は、たとえイスラム教徒のウイグル人が迫害を受けていようとも、中国の政策批判をおこなうリスクは冒せないのだ。
もちろん、これはサウジアラビアに限った話ではない。中国との強いコネクションをもつ米国の大企業としてナイキ、アップル、NBAがあげられるが、3社はいずれも最近、そうした結びつきを人権よりも優先しているとして批判を受けている。ナイキのスニーカーが中国での強制労働で生産されているとか、ナイキとアップルがいずれもウイグル人労働者の奴隷のような労働環境から利益を得ているといった深刻な告発もなされている。NBAは2019年、香港の民主化デモに連帯を表明した1人のチーム幹部が、リーグ内部からの圧力(トップスター選手もこれに加わった)に直面し、騒動に発展した。
異なるのは、サウジアラビアが事実上ひとつの企業で構成された国家である点で、そのため国家自体も、イスラム世界のリーダー的地位にありながら、ウイグル人に対する中国の残虐行為を支持している。
世界が中国に立ち向かい、忌まわしい迫害を止めるため、国家や企業は「お金がすべてではない」と決断を下さなければならない。このコラムは自由市場と資本主義を強く支持しているが、金銭的利益を究極の目標とすべきでない時もある。ナイキ、アップル、NBA、サウジアラビアは、ある程度の利益を犠牲にすべきだ。さもなければ、前世紀の悲劇が再び繰り返されることになるだろう。