人権か利益か、中国のウイグル人迫害で問われるサウジ、米国企業

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中国の人権侵害について世界が声を上げない最大の要因が金銭的利益にあるのはもはや明白だ。人口15億人に迫る中国は世界最大の市場であり、世界第2位の国内総生産(GDP)を誇る。加えて中国は、200万人以上の現役兵力を擁する強大な軍事力と、国連安全保障理事会の拒否権をもつことで、世界に影響を及ぼしている。しかし、中国の少数民族でイスラム教徒であるウイグル人に対する迫害や恐るべき虐待の問題について、世界の多くの国々が沈黙を貫く理由は、今後さらに増すであろう、中国政府の途方もない経済的影響力にある。そして、世界の石油貿易も大きな要因となっている。

中国でおこなわれているウイグル人虐待に関する痛ましい情報は、繰り返し明るみに出て、世界の人々を戦慄させている。その状況は、20世紀に起きた数々の悲惨な残虐行為、例えばオスマン帝国のアルメニア人虐殺、ホロコースト、ポル・ポトのカンボジア虐殺、ルワンダ虐殺、ボスニア人虐殺を想起させるものになりつつある。推定によれば、中国政府は100万人のウイグル人を強制収容所に連行して洗脳教育を実施している。強制中絶や強制不妊手術がおこなわれているとの報告もある。

つい先日も、ドローン撮影された映像がインターネット上で物議を醸した。そこには、拘束された多数のウイグル人たちが、目隠しされ手を後ろに縛られたまま、厳重な監視のもと列車を待つ姿が映されていた。BBCは駐英中国大使にこの映像について質問したが、大使は話をそらし、はぐらかすだけだった。

テネシー州選出のマーシャ・ブラックバーン(Marsha Blackburn)上院議員は、「中国がウイグル人イスラム教徒を強制収容所送りにするために使用している監視国家的手法からは、将来的に全世界を電子的な専制支配に置こうとする彼らの思惑が透けて見える」と書いた。しかし、世界はこうした現状にどう対処しているのだろうか?

ウイグル人はイスラム教徒の集団であり、中国のほとんどの地域と民族的に異なっている。米国とヨーロッパの大部分が沈黙を貫くとしても、少なくともイスラム教徒が多数派を占める主要国のなかには、ウイグル人に対する残虐行為に抗議する国があるのではと思う人もいるかもしれない。

サウジアラビアはイスラム世界の宗教的中心であり、イスラム教徒が多数派の国のなかでは(インドネシアに次いで)第2位の経済力をもつが、同国と周辺の同盟諸国は中国を批判しないだろう。中国は石油貿易における優良顧客だからだ。

実際に2019年2月には、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子が、少数派イスラム教徒を多数投獄している中国を擁護した。ビン・サルマン皇太子は、中国の残虐行為が対テロ作戦であるかのように装った。これは、サウジアラビアも含め、国家が自国民の一部を黙殺し迫害する際によく使われる言い訳だ。

卑劣な残虐行為の証拠があるにもかかわらずサウジアラビアが中国を支持するのは、多くの米国人や米国企業がそうしているのとまったく同じ理由からだ。実際、サウジアラビアほど中国からの収入に依存している国はほとんどなく、この傾向は近年さらに顕著になっている。
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翻訳=的場知之/ガリレオ

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