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高鳥毛敏雄 関西大学 社会安全学部教授

新型コロナウイルスの問題では、現在もさまざまな議論がされている反面、部分の議論が全体像を見えにくくしている──。そんな問題意識から、医療や疫学を離れて、感染症と社会全体の視点から、公衆衛生の専門家で地域の感染症対策に詳しい関西大学の高鳥毛敏雄教授に話を聞いた。そこから見えてきたのは、歴史的につくられてきた我々の地域構造への問いかけだった。

新型コロナウイルスの問題を「ウイルスとの闘い」であると考えてしまうと、この問題の本質がわからなくなります。アメリカのコロナに対する例がわかりやすい。ウイルスは、社会の内部の問題を顕在化させます。移民やマイノリティと富裕層という分断した社会、医療保険制度の不平等、住居の棲み分け構造、人種問題といったことがあると、社会をあげて対応することを難しくします。ウイルスは「その問題をなぜ解決できないのですか」「社会として、なぜまとまれないのですか」と問いかけているようです。

コロナ対策を、欧米とアジアの状況を単純に比べて議論していますが、意味があまりないかもしれません。国や都市などの社会の成り立ちが異なっているからです。日本の大阪と東京も異なる都市です。大阪は、古代・中世から中国大陸の文明を都につなげる都市としての歴史が長い。東京は、中国との関係を断ち、江戸時代から欧米社会とのつながりを深くする中で大きくなってきた都市です。

ところで、公衆衛生については、マスコミをはじめ一般の人々の理解が近年は乏しくなっています。20世紀に病院の医学、病院の医療が大きく進展したことが深く関係しています。極端に言えば、医学や医療の力で感染症の問題は解決できると安易に考える社会となったからです。感染したら病院で治療して治してあげます。また危険な感染症はワクチンを開発して予防してあげますと、単純に考えるようになっています。

医療・医学を重視しすぎた欧米


19世紀に公衆衛生を誕生させたイギリスが20世紀にその先例をつくっています。BBCの映像を見ると、ジョンソン首相が記者会見のときの演台に「NHS(国民保険サービス)を守ろう」というスローガンを張っています。イギリスは1948年に病院を国営化し、医療サービスを無料で提供しています。74年には自治体の公衆衛生の専門職を医療組織に移し、公衆衛生体制をなくしました。医学研究に力を注ぎ、医薬品とワクチンを使って感染症と闘うということにしたのです。

それが間違った政策であることにすぐに気づきましたが手遅れでした。世界トップクラスの医学研究者や専門医を揃えただけでは新感染症には対応できないのです。その対策を担う組織とスタッフを末端まで配置する必要があるからです。感染症対策には、政治、行政、経済、それから国民の理解と協力がとても大事です。リーダーシップを執る人も大事ですが、ステークホルダーの納得と国民との意思の疎通もおろそかにできません。社会が一体感をもって対応する必要があるのです。

構成=岩坪文子 写真=井上陽子

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