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2020.08.04

介護をしたくなる。マイナスをプラスにできるケアテック

製品化までおよそ10年。当時大学生の宇井吉美が設立したabaは、2019年ににおいで尿と便を検知する排泄センサー「ヘルプパッド」の発売に漕ぎ着けた。

同社に出資したMistletoeの孫泰蔵は、彼女の「『執念』とも言うべき情熱に心打たれた」という。

宇井が介護に興味を持ったのは、中学の時。祖母がうつ病になり、慣れない介護の苦労を知った。介護者支援ロボットの研究を志して大学に入学。実習先の介護施設で、製品開発のヒントとなる言葉を現場の職員から聞いた。

「オムツを開けずに中身が見たい」。

オムツ交換は肉体的にも精神的にも負担が大きい作業だ。自動で検知して知らせてくれる機械があったら─。研究を進め、大学卒業前に学生プロジェクトだったabaを、法人化した。

経営経験も資金もない。技術者がいなくなったこともあった。それでも開発を続けられたのは、協力してくれる介護施設があったからだ。「施設が研究開発の協力をしても結果が出せない学生が多いですが、自分は絶対に製品化して恩返ししたいと思っていました」。

縦50cm、横120cmほどのシート型のヘルプパッドは、要介護者のベッドの上に敷く。においを検知すると、専用の端末やアプリで携帯に通知。履歴は自動で記録され、分析結果をもとにした予測表も作成される。検知精度は8割以上。評判なのは自動記録や予測だ。これを使えば新米職員でも計画的に排泄介助ができる。これまでにデモ機も含めて100台が導入され、海外からの問い合わせも増えているという。

「ようやくスタート地点に立てました。abaの製品があったら、介護をしたくなっちゃう。そんなマイナスをプラスにできるケアテックを目指しています」


うい・よしみ◎千葉工業大学卒。在学中の2011年にabaを設立、代表取締役に就任。代表をしながら週末に介護施設で3年勤務。ワーキングマザーを支援する地域活動にも従事。2児の母。

文=成相通子 写真=帆足宗洋(AVGVST)

この記事は 「Forbes JAPAN 6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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