日本の経営者は、まず「ダブルスタンダード経営」をやめるべきだ 伊藤邦雄/一橋大学大学院商学研究科教授


そのためにも、日本企業の経営者たちがまず実行しなくてはならないのは、社内向けと社外向けを使い分ける「ダブルスタンダード」をやめることだ。投資家の前ではROEの向上について語る一方で、社内ではそうした指標について言及することなく、社内の事情を優先させたり、別の目標数値を掲げたりするようでは、いつになってもROEを上げることはできない。

これからの日本企業の経営者には、投資家との対話をこれまで以上に重要視し、活発にしていくことが求められる。中長期的な成長シナリオ、経営哲学をわかりやすく話し、中長期的な投資を促す努力を怠るべきではない。

こうした状況にある中で、注目に値する経営者の1人にオムロンの山田義仁社長がいる。創業一族による世襲から外部のチェック機能が働く透明な社長選びで、49歳で社長に就任した抜擢人事。今年で4年目となる山田社長は、13年度に6期ぶりに過去最高純益を更新し、20年に売上高1兆円以上、営業利益1,500億円へと成長させるというビジョンを描く。

オムロンは、東京証券取引所による「企業価値を向上させている企業を表彰する制度」(企業価値向上表彰制度)で14年度の大賞を受賞している。選考委員会の座長を務めた私は、「投資した資本に対する収益率を重視する経営を行いながら、各現場・各事業に対して経営指標をブレークダウンし、組織全体で目標数値の達成に取り組んだ」ことを主な受賞理由に挙げた。

山田氏のほかにROE経営を手堅く実践しているCEOとしては、日本電産の永守重信会長兼社長、ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長、ソフトバンクの孫正義社長を挙げることができる。

この3人に共通しているのは、創業者系企業の経営者たちで、社長としての在任期間が長いということだ。一方で、トップが4~6年の周期で交代する大企業群を見ると、大きな変革につながらず、まだまだ資本効率が低いという現実がある。

短い任期は長期にわたる権力の集中を避けてのことだろうが、そこは従来の取締役会を改革し、トップの独断専行を抑制できるようにコーポレートガバナンス(企業統治)を強化することで対処できるはずだ。実際、今年6月には東証の上場規則が改定され、上場企業は2人以上の社外取締役の選任を求められることになる。こうしたガバナンス機能を強化したうえで、思い切った経営戦略を実行できるCEOには、長期にわたって経営を任せる選択があってもいい。

海外投資家からの高い期待感

伊藤レポートへの反応は、かなり大きなものだった。とりわけ海外からの反響には私の予想を上回るものがある。これは、同レポートにより、日本の経営者のマインドが変わるのではないかという海外の機関投資家からの期待感の高まりの証拠といえる。同レポートが注目されている今だからこそ、日本企業の経営者は真の「ROE経営」への変革を行い、投資家からの評価を得なければならない。

とはいえ海外の機関投資家の期待に応えるのは容易なことではない。日本企業のROEはこの1年間で上昇しているという指摘もあるが、本当に経営の実力値として上がったのかどうかは、まだ判断できない状態だ。どちらかといえば、円安が先行的に評価されてしまっている状況であるといえ、持続的な成長軌道に乗っているとは断言できない。

今後、日本企業の経営者による舵取りが試されることになる。アジアなどの成長著しい経済や企業の存在を考えると変革に残された期間は2年程度だろう。仮にこのチャンスを逃せば、日本のそれぞれの企業、ひいては日本経済にとり、これまで以上につらい時期が到来することも予想される。一方、チャンスをしっかりとものにすることができれば、これから先の日本経済には明るい展望が開かれていくだろう。

文=伊藤邦雄 イラスト=東海林巨樹 構成=野口孝行

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