まずは、どんなシーンでも掛けていけるシャープでシンプルなものから試した。メタル製のシンプルなものは、控えめな印象でシーンを選ばず掛けやすい。また、掛け心地が軽いという点でも、初心者に向くと漆畑は言う。
「たしかに、賢く見えますね(笑)。それに軽くて掛けやすいです。でも、もう少し存在感があるものも掛けてみたいかな」と初心者らしく試していく中で、装着感とデザインにイメージが膨らんでいく。
漆畑が勧めてくれたのは、「クラウンパント」と言われる形のフレームだ。パントとは、いわゆるボストン型のこと。フレーム上側を王冠のように直線的な形状にすることで、柔らかさとシャープな印象を持ち合わせているのが特徴だ。1950年代のフランスで流行したこの形が、現在トレンドとなっている。
レンズフレームの上部が直線となり両端に柔らかな弧を持つ。YELLOWS PLUS「CLARK」
これはイエローズ プラスという日本のブランドで、眼鏡産地として知られる福井県で作られている。プラスチックとメタルのコンビネーションで、フロントは程よい存在感がありながら、テンプルはチタンで軽く掛けやすい。洗練された印象で、シンプルななかにもこだわりを感じさせるデザインだ。
「これは、今までに手に取ったことのない形です。たしかに、掛けるとそこまでクセはないですが、眼鏡にこだわっている感じは出せますね」と、お気に入りだが、漆畑は当初彼の言った「存在感」の点で別の提案を持ってくる。
「では、もう少し主張の強いものも掛けてみましょうか」と漆畑がセレクトしたのが、黒縁のウェリントンだ。
OLIVER GOLDSMITH「CONSUL-S」
これは、1926年に創業したオリバーゴールドスミスというイギリスのブランドで、なかでも、このウェリントンはブランドを代表する定番モデル。リーバイスでいえば501のような存在だ。
「黒縁のウェリントンは、昔から憧れがあります。モノとしてカッコいいですよね」と彼も満足げだ。
重厚なウェリントンは目元がキリッと引き締まり、硬派な印象に。“眼鏡にこだわっている”雰囲気も演出できる。
試着をしたそれぞれのフレームは素材も形も違えば、掛けた際の雰囲気も異なる。とはいえ、いずれもサイズはちょうど良く、彼には似合っていると言える。さて、こんなときは何を決め手に選ぶべきなのか。
1本目は、“掛けやすさ”を考慮すべし
迷う彼に、漆畑からはこんなアドバイスが。
「ボリュームのある眼鏡は、1本目ではなく2本目にとっておいたほうが良いと思います。というのも、初めての場合、長時間掛けていると眼鏡の重みをストレスに感じることがあるんです。最初はなるべく軽く、そしてデザイン的にもクセがなく掛けやすいものを選ばれたほうが、様々なシーンで使いやすいでしょう」
ウェリントンに気持ちが傾いていた彼も、このひと言でクラウンパントに決定。
「自分は見た目のことばかり考えて、掛け心地まで気が回っていなかったので、このアドバイスは貴重でした。それに取材では初対面の方と会うことも多いので、表情に自然と溶け込むデザインであることの必要性も感じました。客観的な意見は、やはり大切ですね」と納得の様子だ。
サイズは48□22。PD68.5の彼にはピッタリと言える。
そうして文字通りお眼鏡に叶ったのは、クラウンパントのフレーム。カラーは、透け感のあるオリーブをチョイスした。ビジネスシーンで掛けるとなると無難に黒を選びがちだが、オリーブなら上品さを保ったまま、洒脱な印象も演出できる。嫌みがなく顔馴染みも良好ながら、こだわりを感じられる1本だ。
左右の耳の高さに差があるという彼に合うように、漆畑は時間をかけてフレームを調整。最適な掛け位置で掛けることは、見た目においても、見え方においても重要だ。
掛ける人の顔に合わせたフィッティングも眼鏡においては重要だ。
その後、検査を経て度数を決定し、デスクワークなど近用部分に合わせたレンズを入れることに。パソコン作業が長いことを考慮し、ブルーライトカットコーティングもプラスした。
大いに満足した彼は、メガネ初心者としての気づきをこう語る。
「今回は僕の要望を汲んだ的確なアドバイスによって、初めてながら予想以上にすんなりとフレームを選ぶことができました。自分ひとりでは、クラウンパントなんて手に取らなかっただろうと思います。黒ぶちのウェリントンにはモノとしての憧れがありましたが、“1本目は掛けやすさを重視したほうがいい”という指摘は、大事なことを気が付かせてもらった感じがします。早くも2本目が欲しいですね」
似合う眼鏡がわからない、自分には眼鏡は似合わないからと見えづらさを我慢しているなら、ぜひプロのアドバイスを受けてみてはいかがだろう。快適な視界と、自分の新たな魅力を両得できるはずだ。