コロナ禍の検温デバイスから、顔認証システムが普及していく未来

JCVのCEO アンドリュー・シュワベッカー

長引くコロナ禍のなか、「体温検知機能付きの顔認証デバイス」が大型施設やオフィスビル、病院などでの導入が急速に進んでいる。主な機能は、非接触による温度検知をおこなうと同時に、マスク着用の有無を判定するというもの。また、マスク未着用者や発熱の疑いがある人には、音声やブザーで警告を鳴らす仕組みとなっている。

このようなデバイスはいくつかの企業が発売しているが、注目の存在は、JCV(日本コンピュータビジョン)の「SenseThunder(センスサンダー)」だろう。JCVはソフトバンクの子会社として2019年5月に誕生したばかりのベンチャー企業。そのような新興企業がなぜ注目されるのかといえば、「AI」のディープラーニングと「顔認証」技術において世界をリードする、中国(香港)のセンスタイム社が技術面を担っている点にある。

静止しなくても検知可能


JCVは、SenseThunderを突破口に本業であるスマートビルディングやスマートリテール分野への影響力を高めたいと考えている。同社のCEOアンドリュー・シュワベッカー氏に話を訊いた。まずは、いま話題のSenseThunderについて──。

「この製品は、検温機能の精度が高いことが大きな特徴です。一般的な“ガンタイプ”の検温では、赤外線を1点投射して温度測定をします。しかし、この製品はAI画像認識技術を使って額の位置を特定し、そこに約11万点もの赤外線を投射。そのなかで一番温度の高い場所を抽出します。というのも、皮膚に汗などの水分が残っていたり、前髪で隠れていたりすると正確な測定ができません。また、赤外線サーモグラフィで測定できるのは体表温度であり、室内温度を考慮しながら体温へと変換する必要もあります。これには高度なAIアルゴリズムが活用されています」

検温機能は誤差±0.3℃と極めて高い。しかし、この製品は薬事承認を受けたものではないため、発熱の疑いがある人には別途、体温計を使った判定が必要になる。とはいえ、これまで顔認証を使ったオフィスの入退出管理システムを中心に販売してきた同社にとって、検温システムは専門外なはず。この短期間でここまで高精度なものを開発できたのは何故なのだろうか。

JCVの検知システム
検知の速度、正確性ともに性能が高い。入れ代わり立ち代わり人が往来しても性格に検知する。

「中国では、2019年12月に新型コロナ騒動が起きました。その時点ですでに、技術パートナーであるセンスタイム社は中国政府からの要請で開発をスタートさせていたのです。それが3月に完成し、日本では4月15日より販売を始めたということです」

センスタイム社の顔認識技術は中国のAI監視ネットワークにも採用されているが、幅広い認知を得たのは、カメラアプリ『SNOW』への技術提供だろう。当時、リアルタイムで顔認識をおこない、さらに動きにも追従できることは大きな驚きだった。

「顔認証の正確性に関しては自信を持っています。なお、SenseThunderは顔認証、温度測定ともに0.5秒以内で検知しますが、その速度は他社製品も近似値です。しかし、本製品はカメラの真正面に立って静止する必要がないなど、使い勝手の面において優位性があると考えています」

スタンドアローンでの使用はもちろん、ビルの入退室管理のように管理サーバと連携した設置も可能だ。また、購入とサブスクリプションから選ぶことができるなど、SenseThunderは導入においても自由度が高い。
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文=富山 英三郎 写真=西川節子

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