【独白】紀里谷和明がコロナ禍で「新たな映像作品を作ろう」と思った理由

映画監督の紀里谷和明


監督、特にクリエイティブ派の作家性の高い人たちが、自分の作品を実現化するのがなかなか厳しくなってきています。日本では漫画原作であれば映画化できるが、小さいものは耳にも話にも届かないという現実があります。

芸術がビジネスになってしまい、もうこの業界には関わりたくないと思っていました。そんな背景もあり、この数年間を山の中の農場で暮らしていて、人生で初めて幸せだと感じられる生活を送っていたんです。

ただ、新型コロナウイルスの影響で映像業界にさらに悪影響が出てしまった。制作会社、役者、音楽業界が苦しい立場に追い込まれていく。極めてお節介ですが、「じゃあ俺はみんなが苦しんでいる状況の中で、自分だけ農場でにわとりを育てて幸せにやっていて良いのか?」という想いが次第に巡ってきました。

すぐに取引先の社長と話をしたのですが、制作会社はいわば工場を運営しているような形で、そこで作るものが無くなって工場が止まると、それは死活問題になります。

その場で映画制作を提案して、何をやるんですかという話になり、『新世界』があります、と。予算の問題があったので、クラウドファンディングでやってみようと提案し、プロジェクトが始まりました。極めて見切り発車なところもあって、自分の中では映画やアートは半ば引退というか、もうやらなくても良いという気持ちで過ごしていましたが、これを実現しなきゃいけないという使命感を持つようになりました。

クラウドファンディングを活用し、関わる人が幸せになる映画制作の実現にむけて


プロジェクトを開始して2週間ぐらいで、資金の半分は集まりました。すごくありがたいことです。しかし、それは90秒のトレーラーを作るだけの金額でしかないのです。今回は全てをフルCGでやろうとしています。今まで他でやってないような方法を模索し、とにかく手がかかりますし、お金もかかります。「90秒でこの金額か?」とみんなびっくりしますが、それでも現場からは足りないとミーティングで議題になり、それを実現できるように、日々模索しています。

私たちが言っているのはトレーラーだけではなく、本編を絶対につくりたい。すでに書き上げていた『新世界』の脚本は少し改訂し、変更はありますけど、自分が思い描いた作品の完成品を作りたい。ただ、それには数億円がかかってしまう。

そこで、私が考え抜いた結論は、製作委員会も何も通さない方法です。私がすごく毛嫌いをしていたビジネスと繋げてそこからやっていきます。今すでに動き始めていますが、いろんな企業の社長さんたちとお会いして、思っていることを伝えました。

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そうすると、「考えていることが全く同じです」と仰ってくださっている。「新しいことをやらなくてはならないし、私たちも違うことをやらなくてはならない。それに対してチャレンジをしなくてはいけない。しかし、どうして良いかわからない」今までのやり方に縛られていて、ジレンマに苛まれているようでした。 「本当にこんな話を持ってきてありがとうございます」と、こちらが感謝される。

しかし、金額が金額なので、企業とのマッチングでどこまで成功するかはわかりません。私が考えているものは、企業、クリエイター、アーティストも幸せになり、観ている人たち、関わっている人たち、そこで働いている社員さんもみんなハッピーになるものです。誰も不幸にならないやり方です。
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構成=池田鉄平

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