「ここでのサービスを通じて我々が認識したのは、日本には良質なクラシックポルシェが多く残っているということです。『911』に比べると明らかに数が少ない『356』が、これだけ市場に出てくることは予想外でした。仕入れについては当然、オリジナルであることにこだわっています。とはいえ、すべての個体をフルオリジナルで見つけるなんて現実的ではありません。そこで、ポルシェではオフィシャルのスペアパーツを用意しているんです」
1964年製のポルシェとは思えないコンディション。
用意するパーツの種類は、ボディのパネルといった大きなものから、溝まで忠実に再現したタイヤ、年式に合わせたオイルやビスに至るまで、5万2000以上に及ぶという。
「スペアパーツは、本国ドイツの倉庫にストックされています。これらは、かつて提携していたサプライヤーから取り寄せることもあれば、新たな供給源の開拓、あるいは再生産することで補充しているんです」
再生産で蘇った996型911用燃料ポンプ(奥)と928用サイドマーカー(手前)。
再生産とは言い換えれば“復刻”だ。一時は不要となったパーツも必要であれば現代に蘇らせる。代替品に頼らない純正パーツの安定供給が、安心・安全なクラシックポルシェ・ライフを叶えているのだ。
最新技術で蘇る、クラシックポルシェの純正パーツ
ポルシェが行う“純正パーツの再生産”とは、伝統を守るための手段のひとつ。
ポルシェの純正パーツに必ず刻印されているトレードマーク。
偽造を見分けることを目的に、ポルシェは1960年代半ばから、すべてのパーツに“三角形”と“P”のトレードマークを刻印。これに準じて、製造国、製造者コード、部品番号、製造年、素材名の情報などを製品に記載することで徹底した品質管理を行っている。
さらには、オリジナルの図面、当時の詳しい資料、サンプルのストック、長年培われてきた専門知識などを用いることで、ポルシェが定める基準を満たすスペアパーツの再生産が初めて実現する。
再生産された「964」「993」用の冷却用ファンインペラ。
ちなみに当時の生産との違いを挙げるなら、工程に現代のテクノロジーを積極的に導入していることだろう。これにより、見た目は同じでもスペックは向上したほか、小ロットでの生産も可能になった。なんと3Dプリンタを使用して復活したパーツもあるというから驚きだ。
ポルシェ愛に溢れたマイスターによるアフターサービス
空冷ポルシェはオイル漏れを起こしている場合が多く、エンジンは入念なオーバーホールを行う。
「クラシックポルシェの整備はひと筋縄ではいかない」とは、好きモノの間ではある種の常識。
ポルシェセンターに在籍するワークショップマネージャーの菊池 剛さんもそう頷く。
このタイヤも再生産されたパーツである。溝も当時を再現しているが、素材をアップデートすることでスペックの向上を図った。
「ポルシェの整備は、楽器の調律に近いものがあると思います。単純なパーツの交換ですら人の手による調整が必要になるため、最後の最後は感覚的な部分がものを言う。旧車であれば、なおのこと。ポルシェは、すごく人間味のある車なんですよ」