「メンタリティが変わった」 沖澤のどかがベルリンで得た指揮者としての気づき

沖澤のどかさん (c)Yves Petit


子供の頃から歌が好きで好きで、劇場にいるだけでわくわくします。ウィーンの国立劇場ともなると、装置も衣装もすべて一流で息を呑むくらいです。

ただ、なかなかオペラを指揮する機会には恵まれないです。実際に演奏を指揮する場としては、シンフォニーのコンサートが圧倒的に多い。それでもオペラについてできることから吸収していきたいという思いは強く、“マエストロ”リッカルド・ムーティのオペラ・アカデミーを受講したり、譜読みはシンフォニーと同じくらいやっています。

舞台前方の専用の穴に入って、オペラ歌手に歌い出しのタイミングと歌詞をこっそり知らせる“プロンプター”という役割があるのですが、留学前からそういう仕事も積極的にやっていました。アナログそのものなのですが、大物歌手と間近に接することができて、こんなに勉強になることはなかったです。昨年は、NHK交響楽団の首席指揮者パーヴォ・ヤルヴィ氏の『フィデリオ』演奏会公演で副指揮者やらせてもらいました。日本では公演数が少ないこともあり、貴重な機会でした。

学生の頃を振り返れば、このままだとオペラを一生指揮できないかもと思って、手作りでオペラをしたりもしました。周囲に声かけて、衣装も装置も自前で作って、自分で演出までやったのです。それこそ死にものぐるいで、大変すぎて本当に死ぬかと思ったほど。もう二度とやらないです(笑)。

世界中を飛び回るよりも


ここからの2年はベルリン・フィルで首席指揮者キリル・ペトレンコ氏のアシスタントに注力します。コンクールの受賞後にコンサートに忙殺されることはよくあるのですが、アシスタントに就けたことで、アウトプットだけではなく、インプットの時間をしっかりととれるのは自分にとって大きいです。

オーケストラ・アンサンブル金沢時代にも感じていたことですが、ひとつのオーケストラに付いていられることは大きな成長の機会になります。指揮者によって演奏がどう変わるのか、コンサートマスターごとにどう変わるのかといったことを細かく見ていけることが楽しみです。

ベルリン・フィルのリハーサルは、2回目以降は学生にも見せてくれるのですが、1回目は完全に非公開。その初回のリハーサルを聴くことができることにもわくわくしています。しかも、自分の街で。自宅からホールまでは、自転車で通えるんです。



これまでオーケストラの世界では、限られた指揮者とソリストだけが世界中を飛び回り、その公演が一流オケの多くを占めるという状況でしたが、新型コロナウイルスの影響で変わっていく可能性があると思っています。私自身は、今後もベルリンを拠点にし続け、指揮活動の中心はヨーロッパにしていきたいと思っています。世界中を飛び回るよりも、一定のオーケストラと関係を築いてきたい。そして、年に2〜3回は日本に戻ってきて、定期的に公演ができたら嬉しいです。

連載:山本憲資の百聞と一見の二兎を追う
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文=山本憲資

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