ビジネス

2020.07.29

ソフトバンクが売却模索 増大するARMの存在感

ソフトバンクCEOの孫正義(左)と、ARMホールディングスCEOのサイモン・シガース(右)(Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images)

米インテルは、7nmプロセスで製造するCPUの投入が当初の予定よりも1年以上遅れる見通しであると発表した。アップルが最近、インテル製CPUの採用をやめ、ARMアーキテクチャーを使用した独自CPUの開発に切り替えると発表したのも、こうした背景があったからと推測できよう。

インテルの問題は今に始まったことではなく、開発の遅延は過去にもあった。だが、今回の事態は特に深刻だ。7nmプロセスの重要性は高く、AMDなどの競合他社は既に7nm製品を市場に投入。他社製品がインテル製を性能で上回る状況が続き、インテルの株価急落につながっている。アップルにとってインテル製CPU採用が判断ミスだったことは明らかとなっており、高い自由度も備えた他のアーキテクチャーへ流れるのも当然だといえる。

しかし現在のマイクロプロセッサ市場は複雑化している。ソフトバンクは2016年7月、ARMアーキテクチャーの設計を手掛けるアーム(ARM)ホールディングスを320億ドル(約3兆3700億円)で買収したが、傘下のテクノロジー投資ファンドが出した莫大な損失の埋め合わせを進めるソフトバンクは今、ARMの売却先を探しているとされる。

ARMの買収に興味を持つ企業はどれになるだろう? ARMの設計と技術のライセンス事業による2016年売上高は15億ドル(約1580億円)で、ソフトバンクはその21倍の金額で同社を買い取った計算となる。

ソフトバンクはアップルにARM買収を持ちかけたが、答えはノーだった。技術ライセンス事業はアップルの畑ではない。さらに、もし参入すれば、多くのライバル企業が商売相手となり、欧米当局が独占禁止法違反に目を光らせる中で非常に難しい状況に陥るだろう。

アップルはマイクロプロセッサ業界の発展に尽力しており、半導体メーカー大手の台湾TSMCと相互利益になる強固な提携関係を結んでいる。アップルにとってはARMがソフトバンク傘下に留まるのが最善であることは、あらゆる面から明らかだ。ソフトバンクは、テクノロジー市場において他社のライバルになることもなく、事業に必要な資金を提供するだけの比較的「ニュートラル」な企業だ。

唯一の問題はもちろん、ソフトバンクは現金が必要で、ARMにはおそらくかなりの価値があることだ。しかし、アップルの競合企業がARMを買収し、アップルにとって面白くない方法で戦略や優先事項を変更したり、ライセンス料を引き上げたりしたらどうなるだろう? エヌビディアがARMの売却先となり得るだろうか? グーグルが買収したらどうなる? あるいは、既にアップルと対立してきたクアルコムだったらどうだろう?

ものづくりをせず、マイクロプロセッサの製造をせずにアーキテクチャーの設計のみを手掛ける企業が、テクノロジーのエコシステムでこれほどまでに中心的かつ複雑な役割を果たすようになったのは、どうしてだろう? 将来を考えると、ARMは膨大なポテンシャルを持つ企業だ。モノのインターネット(IoT)の普及により、私たちの身の回りにあるものすべてにマイクロプロセッサが埋め込まれるようになり、ARMの売り上げは増加するだろう。

戦略的な観点から見ると、マイクロプロセッサ部門は時間をかけて理解する価値のある魅力的な環境だ。ARMのように企業価値が高まる、より優れた候補は現れるだろうか? そして、あらゆる機器に搭載されたマイクロプロセッサ、そしてそのアーキテクチャーを設計する企業は今、どれほど重要な存在となっているのだろう?

編集=遠藤宗生

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