中国の国営TV・CCTVは昨年末、顔データなど生体データの流出に関する特集を公開したことがある。そこでは、およそ5000人分の顔データがわずか10元(153円)で販売されていたケースがあるという驚きの事実が報じられた。
中国では、バイドゥなど大手ポータルサイトで検索するだけで、手軽に個人情報を購入することが可能だという。すでにフィンテックサービスなどに広く顔認識AIが用いられているが、仮にデータが悪用された場合、社会的に大きな被害が拡散すると現地メディアは警鐘を鳴らし始めている。
中国では、顔写真のみであれば一枚あたり0.5元(約8円)、そこに名前や携帯電話や銀行カードなど個人情報が追加された場合は約4元(約61円)で取引されているという報道もある。安値で個人データが販売される理由は、その多くが個人の承認なく違法に収集されたデータだからだ。言い換えれば、個人データ販売が犯罪×産業分野として確立してしまっている。
一方、中国ではユーザーがサービスの利用約款に同意するなど合法的に収集されたケースにおいても、顔データが企業に“占有”されてしまうという状況に疑念のまなざしが向けられつつある。例えば、顔変換アプリ「ZAO」は、一度ユーザーがアプリを利用した際に収集した顔データを“永久”に使用するとしたことで、大きな批判にさらされたことがある。
しかしながら、中国の専門家たちは、現行法上、任意で収集された顔データや個人情報の利用を制限する手段がないと指摘。テクノロジーの発展からプライバシーを守る上で、法律的な限界があることを認め始めている。
最近では、中国国内で顔認識AI絡みの訴訟も起きている。ある大学の教授が動物園の年間パスを購入したところ、動物園側が入場方法を指紋認識から顔認識に勝手に変更。教授は中国消費者権益保護法を前提に、経営者が個人情報を収集・使用する場合、消費者の同意を得なければいけないとして民事訴訟を起こした。
個人データに対する意識の低さは、中国企業もしくは中国企業が提供するAIサービスへの国際的な支持を失わせる原因となろう。
例えば最近、米やインドで利用禁止されたとしてなにかと話題のTikTokは、韓国では個人情報保護法違反で課徴金(罰金)を科されたことがある。韓国では満14歳以下の子供の個人情報収集には法的代理人の同意が必要となるが、TikTokはこれを守らず、また、ユーザーに無断で個人情報を米国やシンガポールなどにも移転していた。「悪意はなく、韓国の法律を深く理解していなかった」というのが同社側の説明だ。
AIを使ったサービスの爆発的な増加は、中央集権的な管理・統制が「是」とされる中国国内においても「プライバシーとテクノロジーをどう天秤にかけるか」という議論を生み始めている。日本を含む西欧諸国では前者を守るべき権利とする考えに傾いており、テクノロジーを規制、もしくは企業側が“自粛”する傾向が強いが、中国国内世論がどういう答えを出すかによっては、中国企業もサービスの在り方について再考を迫られるはずだ。ゆくゆく、AI産業の国際競争力にも影響を与えていくかもしれない。
連載:AI通信「こんなとこにも人工知能」
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