僕たちはチル期。「ポジティブ」を見ていたい若者たちに刺さる22歳映像作家の挑戦


僕たちはチル期。ポジティブなものを見ていたい若者たち


様々な活動を通して幅広い世代と交流する機会のある小西は、「現代の若者は人生に刺激や派手さを求めない。なるべく穏やかで心地良いものを見ようとする傾向がある」と言う。

「僕たちの世代ってある意味『チル期』だと思うんです。経済的に大きな盛り上がりも浮き沈みもないし、上の世代みたいに荒波を乗り越えてきての高揚感とかもない、なんでもない時。きっとこれからの未来にも特段大きな変化はなくて、『将来はこんな感じになるのかな』ってのが透けて見えちゃってる。軽いあきらめというか絶望感というか、希望があんまり見えないんです」


Photo by 綿谷達人

「それでも自分たちの世界を美しいものだと信じていたいから、世界の良い側面を見せてくれるものを積極的に取り入れようとしてる。だからみんなグッドストーリーの動画とか仲良しグループのYouTuberの楽しい番組を好んで観てるんじゃないかな。チル期の僕たちは、そういうポジティブなもの、ピースフルなものを見ていたいっていう願望があるんじゃないかなと感じてます」


香港のデモで自由を叫ぶ、同世代の若者たち


現在、小西は香港のデモを取材している。2019年の夏、香港では容疑者引渡し条例改正案に対する抗議行動として大規模なデモが起こり、学生たちも体を張って戦っていた。2020年1月に小西は香港入りし、映像の視点が偏らないように、ファーストエイダー(救護隊員)の若者を密着取材した。彼らは中立な立場で応急手当をする役割を担っており、ケガ人であればデモ隊も警察官もどちらも助ける。自分とは全く違う境遇にいる香港の若者たちが、どんな毎日を送り、どんなことを思っているのか。同世代の目線で彼らを見つめ、切り取っていく。


Photo by 綿谷達人

「現地で出会った香港人の一人が、今はファーストエイダーなんですけど、元々は前衛戦だったんですよ。黒い服を着て戦ってて、その仲間の中に好きな人がいたらしいんですけど、『火炎瓶の投げ方がめちゃめちゃ綺麗で惚れた』と話してた。もう恋バナすら次元が違うと思いましたね」

本来であれば、旅行に行ったり好きなことをして楽しく過ごすはずの夏休みも、将来のための学生生活も、全てをデモに捧げる香港の若者たち。自分と変わらない若者たちが必死に戦う姿、涙ながらに自由を叫ぶ姿を目の当たりにした小西は、ここで起こっていることを世界中のもっと多くの人に伝えなくてはという使命感に駆り立てられた。

そして、映像の制作資金とサポーターを獲得するために、Kickstarterでクラウドファンディングに挑戦した。わずか2日で目標の300万を大きく上回り、943人ものサポーターから支援を得て約445万円を達成した。
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文=水嶋奈津子

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