僕たちはチル期。「ポジティブ」を見ていたい若者たちに刺さる22歳映像作家の挑戦

現役大学生の映像作家・ジャーナリストとして活動する小西遊馬(Photo by 綿谷達人)


「ドキュメンタリーには、映像に映し出された誰かのストーリーに思いを馳せる、寄り添う気持ちを育む力がある。そもそも他人の痛みとか苦悩とか喜びとかに思いを馳せる能力がなければ、社会を良くするなんて言っても、目指すべき未来が想像できないと思ったんです。歴史のように事実を点で辿るのではなく、その周りにある無数の人たちのストーリーや思いを拾い集めてたくさんの人に届けたい。そのためにドキュメンタリーを作ろうと考えました」


Photo by 立石裕太

処女作で4000シェア。若者に刺さるドキュメンタリー


経験もなければ機材もない、あるのはドキュメンタリーで人の心を動かしたいという思いだけ。そんな彼に共感した仲間と共に、ひたすら撮影の練習を繰り返し、映像制作に没頭した。

初めて取材したのは、2017年8月にミャンマーのラカイン州北部で起こったミャンマー軍の暴力行為により、バングラデシュに逃れたロヒンギャの人々だった。2019年3月、小西らはまだ生々しい傷痕が残るロヒンギャ難民キャンプを訪れ、精神的苦痛や空腹から逃れるために蔓延るドラッグの問題や、ミャンマー軍に対する複雑な心中にカメラを向けた。


Photo by 綿谷達人

「ロヒンギャの人たちの話を聞いている時も、イタリアの時と似たような感覚がありました。母親が目の前でレイプされて、父親は首を切り落とされて、自分は足を切られて逃げてきたっていう男の子の話を聞いても、僕にはその痛みがわからない。自分が知ってる範囲でしか想像できないんです。誰かの痛みを本当に理解すること、思いを馳せることは難しいという壁を感じました」

2カ月後に本編が完成すると、小西はそのティザー動画を作り、動画を見た人が「自分にもできること」を行動に移せるように、チャリティのキャンペーンを企画した。北星鉛筆とアライアンズの2社をスポンサーに「1シェアが100円募金になる」として動画の拡散を呼びかけた。その投稿は大学生を中心に一気に拡散され、4000シェアという人気コンテンツとなった。

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KONY(小西遊馬)(@konijournal)がシェアした投稿 -

ロヒンギャ難民キャンプを取材した短編ドキュメンタリーのティザー動画。

「シェアしてくれたのがほぼ大学生、しかもそういう社会問題に関心が無い層に届いたのが一番うれしかったですね。社会問題とかドキュメンタリーとか、普段はとっつきにくくてみんなが能動的に見るようなものじゃなくても、やり方次第で届くんだと希望を感じました。自分の周りの似た価値観の人や、毎回同じコミュニティ周辺でコンテンツがグルグル回っても意味がない。普段ドキュメンタリーやニュースを見ていない人たちに届けることに、自分はこだわりたいと思っています」
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文=水嶋奈津子

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