僕たちはチル期。「ポジティブ」を見ていたい若者たちに刺さる22歳映像作家の挑戦

現役大学生の映像作家・ジャーナリストとして活動する小西遊馬(Photo by 綿谷達人)

若者に社会課題や政治に興味を持ってもらうのは難しいことなのだろうか。

SNSを見ていると、若い世代も様々な課題意識を持ち、多くの人が声を上げている。しかし、10〜30代の選挙投票率を見てみると、2020年7月の都知事選では44.73%、2017年10月の国政選挙では39.70%と、依然として低迷している。

一部の人が、「選挙に行こう」「プラスチックゴミを減らそう」「あらゆる人種・セクシュアリティに平等の機会を」と呼びかけても、フォロワーや友人などその周りのコミュニティにしか届かない。世代や価値観など様々なレイヤーを超えて、多くの人たちから共感を得ることはたしかに難しい。

しかし、現役大学生の映像作家・ジャーナリストとして活動する小西遊馬は、「普段は社会課題に興味がない若い世代にも、やり方次第で届けることはできる」と語る。わずか1年半前からドキュメンタリーを作り始めた小西。ロヒンギャの難民キャンプを取材した際の動画をインスタグラムに投稿し、現地の実情を伝えながらチャリティを呼びかけた。その投稿は瞬く間に4000シェアされ、多くの若者に難民キャンプの厳しい現状とドラッグや暴力などの問題を知らしめ、彼らのアクションにつなげた。

撮影も映像制作の経験もなかった彼が、なぜ「人を動かす」ドキュメンタリーを作るようになったのか。難民キャンプやフィリピンのスラム街、香港デモの最前線など、過酷な現場から聞こえてくる声を通して、彼らが抱える課題と自分たちのアクションを何とかして繋げようと、自ら発信し続けている小西に話を聞いた。


『The Scars of Genocide』(監督:小西遊馬)ロヒンギャ難民キャンプを取材した初の短編ドキュメンタリー作品。「国際平和映像祭2019」 で、グランプリ・観客賞・Yahoo!ドキュメンタリー賞の3冠を受賞。

「僕は何も知らなかった」地中海難民の友人が教えてくれたこと


小西がドキュメンタリー制作への道を歩みだしたきっかけは、17歳の時に留学したイタリアで出会った、モロッコ人の友人からの言葉だった。2015年当時のイタリアは、アフリカから多くの地中海難民が船で流れ込んできていたピークの時だった。留学先のホストファミリーとランチにパスタを食べている横で、テレビでは地中海難民が乗った難破船がひっくり返り、乗客全員が亡くなるようなニュースが日常的に流れていた。高校の放課後に通っていた公立の語学学校では、彼以外の生徒は全員アフリカから来た難民ばかり。その中の一人、モロッコ人の友人から地中海難民であることを打ち明けられた。

「僕が帰国する間際に、彼は泣きながら『親は海の向こうにいて、兄弟は亡くなって、今は里親に預けられている』と……。でも僕は何ひとつ言葉をかけてあげられなかった。もう頭が真っ白で、何が起こってるのか想像も理解もできなかったんです。悲しくも苦しくもならない自分に劣等感を感じました。自分の隣で泣いている親友の心すら癒してあげられないなんて、僕が学校で学んできたことも、これまでの経験も、なんて無意味だったんだろうって」

そんな圧倒的な無力感に打ちのめされた小西に、「日本は強い国だから、日本みたいな国が社会を平和にしてほしい」と友人は言い残した。自分に何ができるんだろうと模索しながら、NPOの活動やチャリティに参加した。それでも彼が思い描いたように現実はちっとも変わらない。より多くの人を動かして、それなりのインパクトを持って社会を変えるためにはどうしたらいいのか。悩み抜いた彼の頭に浮かんだのが、ドキュメンタリーだった。
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文=水嶋奈津子

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