「フードバンク」は全米で広がる食品ロスの救世主となるか

Tom Williams / Getty Images


アメリカの外食産業には、昔から満腹になる以上のボリュームを提供しないと顧客満足につながらないという文化があり、食べきれなかったものを箱に入れて持ち帰って、翌日家庭で消費するのが普通になっている。

しかしホテル泊の場合は、余った分を部屋に持ち帰ることは難しい。ラスベガスでも冷蔵庫があるホテルはあるにはあるが、それらは電子管理されていて、あらかじめセットされているビールを抜いて、持ち帰った食べもののためにスペースをつくったりすると、その場で課金されてしまう。

つまり、ラスベガスの4000万人の観光客の食べ残しは、ほとんどがゴミ埋め立て場に直行することになる。食べ残しの半分を占めるのはフルーツと野菜と酪農製品で、それらはメタンガスを発生させ、二酸化炭素とは比べ物にならないほど地球温暖化現象の悪因となっている。

国連本部での小泉環境相への質問


ラスベガスの食品ロスは規模が大きいだけに、社会問題になり、ホテル側も重い腰を上げ始めている。例えばラスベガスで最もプレゼンスの高いカジノリゾートホテルグループのMGMリゾートやサンズ社は、調理過程での食品ロスや、顧客の食べ物残しを、地元の養豚場に供給する流れをつくった。

畑の肥料にしたり、キッチンで使ったオイルをバイオ燃料にコンバートしたりするなどの取り組みも進んでいる。

あるいは、客が手をつけなかった新鮮なパンも、夜を超えると廃棄対象だったが、それを翌日、牛乳と砂糖と卵を加えてオーブンで焼き、パンプディング(パンプリン)にして社員に無料で供給するなどの工夫も始めている。

たった1つのホテルでも5000室もあったりするので、このスケール感がこういったコンバージョンを意味のあるものにしている。

そんななか、全米ではいま、フードバンクという非営利団体が数多く立ち上がっている。市場で売れ残ったり、あるいは、わずかな「キズモノ」になって見栄えが悪くなったりして買われなかった食品や食材を、即廃棄するのではなく、フードバンクがトラックで引き取り、「飢餓に苦しむけれど、物乞いをすることはよしとしない貧困家庭」に配るプログラムを進めている。

この「フードバンク」にはそれなりの歴史があり、1967年にできたセントメリー・フードバンクが世界最初のフードバンクとされる。これまでは、どちらかと言えば、寄付金を募り、その金でボランティアが材料を買って温かい食事をつくり、飢餓にある人たちに振る舞うというコンセプトが主流だった。

しかし昨今は、需給のギャップや買いすぎ、購入間違いなどから生じる「まったく新鮮な」食材を廃棄から救い、貧困家庭やボランティア組織に配る仕組みが一般的となってきた。ひと口にフードバンクといっても、多様な救済パターンが生まれている。

これはまさに、食材ロスがある程度予測できるものになり、生鮮食料品のように「スピードをもって救済」しないといけないものとして、機動的に対応できるようになったことが大きい。さきほどのラスベガスのリゾートホテル各社もフードバンクのメンバーとなり、使わなかった食材を提供している。

かつて、ニューヨークの国連本部で開かれたサミットに参加した小泉進次郎環境相が、アメリカで何を食べたいかと記者に聞かれて、「毎日でもステーキを食べたい」と言って、バッシングを浴びたことがあった。しかし、その際に記者が質問すべきだったことは、相手が環境相でもあったので、「ちゃんと残さずに食べたのか?」というものが適切だったにちがいない。

連載:ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
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文=長野慶太

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