NYは経済活動再開の最終段階へ 「ゴースト・オフィス」が示す新しい日常の行方

NYのレストランやカフェでは、屋内の飲食が禁止されたままだ(Getty Images)


まだまだ「ゴースト・オフィス」が多い


複数の友人の声を聞いてみると、警戒感からか、オフィスには戻りたがっていない。しばらくはできるだけリモートで仕事を続けたいという声が圧倒的だ。

元々今年の初めに、中国の武漢で、レストランのエアダクト近くにいた人々の感染がニュースで流れたことに加えて、7月には世界の医師200余名が連名でコロナの「空気感染、エアゾル感染の可能性」を主張したこともあって、換気をエアコンの通気口で行う密閉されたオフィスビルには、人々の警戒感は強い。

とりあえず職場復帰は25%としている会社や、交代制で出勤している会社もあるが、いくら感染対策を徹底しているとはいえ、皆が一斉にオフィスに戻るという状況にはまだなっていない。

ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事も、7月になって商業モールやオフィスビルに対して、新型コロナウイルスを防ぐ高効率のエア・フィルターへの交換を義務付けるかもと言っている。オフィスに戻るにしても、感染者との接触をトレーシングできる追跡アプリのインストールを条件としているビルも多い。

労働省や健康福祉省が出しているオフィス再開のガイドラインでも、手の消毒剤の用意、手洗いの励行を促し、無理に出社させることなく、テレワークを奨励するとしている。

そのためオフィスに戻るとはいっても、最低限必要な作業をするための出社であり、まだまだ人もまばらの「ゴースト・オフィス」となっているのが現状で、出社している人数が少ないほうが安心するというような、いびつな状況が続いている。当然、従来昼のオフィス街の客を相手にしていた飲食店は、まだまだ稼働率が上がってこない。

街中でもやはり25名以上では集まれないために、私の造語だが、小さなグループが距離を置きつつ散在しているような「群散複合社会」の様相を呈している。そのため、8月に私もいくつかの披露宴バーティに出席する予定であったが、来年に延期となってしまった。いま無理に集まって、万が一クラスターが発生すると困るとの判断もあったようだ。

日米ともに、失業率の増加に伴って政府から給付金が配布されたが、アメリカの失業給付金の上積みの$600も7月末で打ち切られることになっていて、現在、議会で再度の延長が協議されている。

国民すべてに給付金を配布し続ける「ベーシックインカム」制度とは異なる、とはいうものの、失業給付金の継続は、事実上、失業者対象のベーシックインカム制度に近いものになる。既にスペインではベーシックインカムを導入しているが、失業率は高止まりしてしまい、一向に事態は改善されていない。

給付金を何度も配布することになると復職は遅れ、失業率は下がらないので、給付金の代わりに「復職給付金」を出し、復職するインセンティブを与えたほうがよいのではという議論が議会ではされているが、舵をどちらに切るのかは悩ましい判断となる。

いったんは裾野まで下りたかのように見えるニューヨーク州の感染者数ではあるが、まだ3月からのコロナ禍に対する警戒マインドは、簡単には戻らない。秋以降に予想される第2波への危機感と、ワクチン開発・接種の実現を心待ちにする期待感が入り混じった日常生活が、依然ニューヨークでは続いている。

日本でも、新型コロナウイルスへの感染者数が増大するなか、Go Toキャンペーンがスタートして、経済活動再開への政策が打ち出されているが、ニューヨーク市の第4フェーズの行方とそれによる人々の動向は、大いに参考となるものにちがいない。

連載:ポスト・コロナのニューヨークから
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文=高橋愛一郎

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