これに先立って、市内には無料のPCR検査を受けられるテントがそこかしこでつくられており、私も行ってみた。
ドラッグストアの駐車場などで、ドライブスルー形式で検体を採取する様子はそれまでも映像で見ていたが、図書館を転用した会場で実際に検査を受けてみると、鼻の奥に長い綿棒を差し込まれて採取する間じゅう痛くてうなってしまった。そもそも何も症状の兆候もなかったので、結果は陰性だったのだが。
タイムズスクエアで鳥の声
こうした無料のPCR検査で驚くのは、陽性患者が発生した時に、その人間を追跡する要員が現在3000名もいることだ。つまり、感染者からの拡大を、しらみつぶしに抑える戦術を取っているということになる。
ニューヨーク市の新型コロナウイルスによる死者は、7月17日と19日はゼロとなり、感染者数も19日には5人にまで減少してきた。3月からの感染拡大のグラフで言えば、右側の裾野までやっと降りてきたということになる。
経済活動は7月8日から徐々に再開されており、実感としては、ゆっくりではあるが活気は戻ってきている。交通量も6割から7割には回復したようにみえる。スーパーや薬局で売られている消毒用のアルコールやマスクも棚に在庫が残るようになり、価格も下がってきている。
マンハッタンの中心部に住む友人は、一時期「タイムズスクエアで鳥の声が聞こえる」と驚いていたが、いまとなっては「あの時の静けさが懐かしい」とさえ言っている。
経済活動が再開されたとはいえ、動物園などの屋外の娯楽施設では入場者数は33%に制限されており、レストランなどでは屋内での飲食は禁止されたままだ。店の前の通りにテントを張り出しての屋外での営業は認められているが、ソーシャル・ディスタンシングなどを守らないレストランやバーからは、警告3回目のレッドカードでアルコールの販売許可を取り上げる措置も取られている。
全米でみると、感染者数はカリフォルニア州、テキサス州、フロリダ州、アリゾナ州などで急激に増加しており、カリフォルニア州に至ってはついにニューヨーク州の感染者数を抜いてしまった。3カ月前の4月10日頃がピークだったニューヨーク州と比較すると、攻守所を変えての感もある。
とはいえ、死者数で比べてみると、7月22日の時点でニューヨーク州は累計3万2000人を超えており、カリフォルニア州の約4.5倍にもなる。
ピークであった4月時点のニューヨーク州では、まだ新型コロナウイルスがどういうもので、どう対処するかの方向性も見えない手探り状態だった。それに比べて他の州では、これまでの経験値を生かすことができたことと、レムデシベルなどの治療薬やステロイド剤の有効性、完治した人からの血漿療法も出てきたことによって、死亡率は、7%を超えるニューヨーク州に比べて、2%弱に留まっている。
ニューヨーク州は、感染が拡大している他州からの旅行客や訪問客に対して2週間の自主隔離を要請しており、場合によっては罰金も科す処置を取っていて、依然として感染拡大に対する警戒感は強い。