ジャクソン5を生んだ音楽レーベルの「型破りなヒットの法則」

創業60周年を迎えたモータウン。数々の一度は耳にしたことのあるポップな音楽と、トップアーティストを世に送り出してきた。(Photo by Getty Images)

創業60周年を迎えたモータウン。数々の一度は耳にしたことのあるポップな音楽と、トップアーティストを世に送り出してきた。(Photo by Getty Images)

年老いた黒人たちが、従軍時代に地中に隠した埋蔵金を掘り返すために、かつて戦ったベトナムの地に再び足を踏み入れる……。
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黒人監督スパイク・リーがネットフリックスを通じて今年発表した最新作『ザ・ファイブ・ブラッズ』(2020)では、R&Bシンガー、マーヴィン・ゲイのアルバム『ホワッツ・ゴーイング・オン』の収録曲が全編にわたって使用されている。

同作が使われたのは、ベトナム戦争の真っ只中である1971年に発表されたことだけが理由ではないはず。リーの前作『ブラック・クランズマン』(2018)が、1970年代にKKKに潜入捜査を行った黒人警官の自叙伝をベースにしながら、現在も変わっていない人種差別を糾弾していたように、本作もまたベトナム戦争で捨て駒にされた黒人兵士たちを通じて「ブラック・ライブス・マター」のムーヴメントへの共闘を呼びかけているのだから。

事実、こうしたメッセージのサウンドトラックに『ホワッツ・ゴーイング・オン』ほど相応しいアルバムはない。楽器とヴォーカルが幾重にも重ねられることで、まるで喜怒哀楽を同時に表現したかのようなサウンドが聴ける本作は、時代を超えた普遍的な美を湛えている。
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自動車都市デトロイトだからこそ生まれたモータウン


この傑作を生み出したレコード会社が、マーヴィンのほか、ダイアナ・ロス&スプリームス、テンプテーションズ、スティーヴィー・ワンダー、そしてマイケル・ジャクソンを擁するジャクソン5といった世界的スターを世に送り出した「モータウン・レコード」だ。


ソウル・ミュージックの金字塔は独特の手法で思わず口ずさみたくなるポップなメロディーを生み出した。


ジャクソン5「I Want You Back」 最年少のマイケルはデビュー当時8歳。


MOTOWNとはMOTOR TOWNの略称。この名前でもわかる通り発祥の地は、フォード、ゼネラルモーターズ、クライスラーからなるアメリカ自動車産業の「ビッグ3」が本社を構えるミシガン州デトロイトだった。

ニューヨークやロサンゼルスではなく、なぜデトロイトだったのか。この謎に答えてくれるドキュメンタリー映画が、9月に日本公開される『メイキング・オブ・モータウン』だ。モータウン・レコード創業60周年を記念して製作された同作は、創業社長のベリー・ゴーディ・ジュニアと最初の看板スターで副社長も務めたスモーキー・ロビンソンを案内役に、かつての所属アーティストやスタッフたちが同社の黎明期を語っていくというもの。

本作を観ればモータウンがデトロイトだからこそ生まれた会社だったことがわかる。理由は簡単、需要があったからだ。自動車工場で職を得るために南部から大勢の黒人が移住したことで、黒人教会、酒場、そしてナイトクラブが次々と作られ、街には黒人音楽が溢れるようになっていたのだ。

そんな中、黒人音楽専門のレコード店「the 3-D Record Mart」を開業したのが、1929年生まれのベリー・ゴーディ・ジュニアだった。両親は南部のジョージア州出身だったが、彼自身は生まれも育ちもデトロイトの都会っ子。そのせいか好きな音楽はジャズだった。だがその趣味が裏目に出た。南部出身の客が欲しがったのはブルースのレコードだったからだ。レコード店はあっさり潰れ、ゴーディは借金返済のためにフォード社のリンカーンの組立工場で期間工として働かざるをえなくなった。

モータウンのコンセプトが生まれたのはこの時である。ゴーディは動き続けるベルトコンベアーを見てひらめいた。ポップソングを自動車生産ラインのように作詞作曲、編曲演奏、歌をそれぞれのエキスパートに割り振って作れば、効率よく大量のヒット曲を生み出せる!
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文=長谷川町蔵

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