移民の現実を描くドラマ「ステートレス」が突きつけるもの

ネットフリックスで配信中の「ステートレス-彷徨の行方」キャスト陣(Photo by Andreas Rentz/Getty Images)

ネットフリックスで配信中の「ステートレス-彷徨の行方」は、オーストラリアの移民拘留センターを舞台にした全6話のドラマシリーズだ。世界には戦争や迫害によって住む場所を失った7千万人の人々が存在し、その半分は子供だとされている。

米国はメキシコからの移民の扱いを巡り、国際的な非難を浴びている。しかし、移民の拘留は米国に限った話ではなく、世界的な問題だ。オーストラリア政府は2012年以降、船で入国しようとした亡命希望者をナウルやパプアニューギニアの、オフショアの施設で拘留している。

拘留センターの劣悪な環境は以前から報じられてきたが、ある女性が誤って拘留された事案をきっかけに、改善を求める声が強まっている。

ステートレスでは、この女性をモデルにしたキャラクター、ソフィ・ワーナーをオーストラリア人女優イヴォンヌ・ストラホフスキーが演じている。ソフィは、航空機の添乗員で、様々なトラブルから逃れようとしている。

ソフィの役柄のモデルになったCornelia Rauは、2004年に砂漠の真ん中にある移民キャンプに拘留された。Rauは、かつてカルト宗教に入信し、その時の経験がトラウマとなり、精神に異常をきたした。彼女はドイツ人に成りすましてカルト集団から抜け出したが、身分証がないため、10ヶ月に渡って移民キャンプに拘留された。

その後、Rauの家族が彼女を発見して保護した。この事件は大きなスキャンダルとなり、オーストラリア移民局の刷新を求める声が強まった。

ドラマで、ストラホフスキーが演じるソフィはカルト集団でレイプ被害に遭い、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩まされている。ソフィの妹のMargotは、失踪した姉を必死で捜索する。

ストラホフスキーの演技はリアルで、難民を救済するはずの施設で、ソフィのような悲惨な体験を強いられた人々が世界に何百万人もいることを、我々に教えてくれる。ソフィは、拘留センターで唯一国外退去を求めており、他の難民はオーストラリアへの亡命を求めている。

また、ドラマに登場するアフガニスタンからの難民、アミールは、妻と2人の娘と共にオーストラリアに逃れてきたが、別のボートに搭乗した妻と次女が溺死したことを拘留センターで知らされる。彼らの姿は昨年、メキシコからリオ・グランデ川を渡ってアメリカに不法入国しようとして、溺死した父親と娘のショッキングな写真を想起させる。

さらなる苦難に襲われる移民たち


2019年6月に、生後23ヶ月のバレリアちゃんと、父親のオスカー・アルベルト・ラミレスが溺死している写真が公表された。バレリアちゃんは、父親の首に腕を巻き付けている状態で発見された。この親子は、より良い生活を求めてエルサルバトルを逃れ、メキシコとアメリカの国境にあるリオ・グランデ川を渡る最中に溺死したのだ。

ドラマで描かれるアミールの姿は、我が子を救うために全てを失った父親の苦悩を完璧に表現しており、視聴者の記憶に残り続けることだろう。

一方で、ジェイ・コートニー演じるCam Sandfordは、家族を養うため、拘留センターで看守の仕事に就く。当初は難民たちに親切に振る舞うコートニーだったが、仕事のストレスから徐々に厳しい態度をとるようになる。

ドラマ「ステートレス」は、機能不全に陥ったシステムが、難民希望者とそれを管理する者の双方に多大な影響を及ぼしている事実を突きつけている。ドラマを制作したTony AyersとElise McCredie、ケイト・ブランシェットは、本来は弱者を救うはずのシステムによって傷つく人々の姿や、拘留センターの厳しい現実をリアルに再現してみせた。

迫害から逃れ、より良い生活を手に入れるために全てを犠牲にして難民となった人々が、さらなる窮状に追い込まれている。その現実を、我々は決して無視してはならない。

編集=上田裕資

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