ビジネス

2020.07.25 11:30

キーワードは「相利共生」ゼブラ企業が次世代を担う

田淵良敬、陶山祐司 Tokyo Zebras Unite

ウィズコロナ、アフターコロナ時代の「これからの理想」をみんなで話そう。そして、ビジョンを再定義しよう。

7月22日発売のフォーブス ジャパン8・9月号では「新しいビジョン」入門特集を掲載。これからの時代の「ビジョン」を考えるガイドブックを目指し、台湾のデジタル担当政務委員オードリー・タンをはじめ、世界および日本の起業家、経営者、Z世代の「これからの理想」を紹介している。


利益や規模の最大化、指数関数的な成長といったシリコンバレーの起業家文化への問題提起として生まれた「ゼブラ企業(Zebras、シマウマ)」というコンセプトが世界的な広がりをみせている

ゼブラ企業のコミュニティである「Zebras Unite」は米国をはじめ、英、独、日本、シンガポールをはじめ世界展開し、起業家、投資家、支援者をはじめ5000人近いメンバーにまで拡大した。

ゼブラ企業は、評価額が10億ドルを超える未上場企業「ユニコーン」を無条件に賞賛する風潮へ危機感を覚えた米国の4人の女性起業家が2016年に提唱した概念だ。IPO(新規株式公開)や10倍成長を優先するのではなく、よりよい社会の形成に寄与することを第一とし、持続可能な成長を追求している企業の総称である。社会的な使命やあるべき社会像の追求が目的であり、持続的繁栄ができる範囲内での利益の創出と成長を目指している。

我々が定義しているゼブラ企業の必要十分条件は、1. 社会的インパクトの創出、2. 多様なステークホルダーへの貢献、3. 革新性、4. コラボレーティブ(開示性)の4つだ。

「Winner Takes All(勝者総取り)」という市場環境のなかで、独占・寡占を目指して競争し、限られた個人、株主がその受益者になるユニコーン企業。それに対し、ゼブラ企業のキーワードは「相利共生」。他者と共存・協調して協力し、公共やコミュニティが受益者となる。

ユニコーンが一匹で生息するのに対し、ゼブラは群れで暮らしているのは面白い対比ともいえるだろう。よりよい社会をつくり、維持していくためには多種多様なスタートアップの存在が必要であり、「ゼブラ企業」の創出・拡大とそのためのエコシステム構築が必須になるというのが私たちの考えだ。

世界的な歴史学者・哲学者のユヴァル・ノア・ハラリら曰く、いまは、「はじめて供給が需要を上回る時代」に入った。この新しいパラダイムは、人の幸せや成功の定義を改めて考える契機になると考えている。資本主義や株主第一主義の再構成が問われ、成功の新しい定義を探索する過程で、ゼブラ企業の重要性はより高まっていくのではないか。

最近、「Zebras Unite」における話題は、「組織のオーナーシップ」のあり方。Savvy Cooperativeがその先進事例である。医者や製薬会社と患者情報のマッチングプラットフォームを提供する企業だが、法人形態がユニークだ。創業者のジェン・ホロンジェフは患者のために事業をつくりたいと考え、患者が議決権を持つ組合形式で法人(患者が所有する唯一の協同組合)を設立。さらに、米国Vからの資金調達の際に、米国初の「患者、従業員、創業者、株主の4つのクラスにオーナーをわける」法人へと姿を変えた。これにより、一部の株主だけでなく、全ステークホルダーが経営に参加できる形を実現した。

そのほかにも、企業目的と利益のバランスをとり、環境・社会的インパクトを考慮するように義務付けられた「Certified B Corporation」や利益を必ず地域の社会的課題の解決に還元する「Community Interest Company」などの動きが加速し、世界では従来の株式会社という形態ではない、新たな法人を創る起業家が増えている。

コロナ・ショックにより、急速な経済成長を目指してきた社会が一時的に停止するなかで、ステークホルダーを重視する事業や経営の考え方はより加速していくだろう。社会的意義やインパクトを掲げながら、他者と一緒に共有する「開かれたビジョン」、「明確なパーパス(存在意義や目的)」を持ち、長期視点で成長を目指すゼブラ企業の社会的なムーブメントを起こしていきたいと思っている。

たぶち・よしたか◎日商岩井(現双日)、LGT Impact、ソーシャル・インベストメント・パートナーズを経て、社会変革推進財団インパクト・オフィサー。2019年同団体を設立。

すやま・ゆうじ◎社会企業家、至真庵代表取締役。東京大学倫理学専修課程卒業。経済産業省、インクルージョン・ジャパンなどを経て、独立。19年同団体を設立。


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Zebras Unite

2017年に設立したゼブラ企業のコミュニティ。ジェニファー・ブランデル、マラ・ゼペダ、アストリッド・ショルツ、アニヤ・ウィリアムズの4人の米国女性起業家が設立。「ゼブラ」の概念をムーブメントとすべく活動し、世界5000人のメンバーを有する。ステークホルダーに向き合い、長い時間軸での成長を目指す、ゼブラ企業への投資を含めて、エコシステム構築に向けての動きも出始めている。


WELLNEST HOME

「持続可能なまちづくりの実現」を目指し、健康・快適で、エネルギー負荷が低い高断熱高気密の住宅を提供するハウスメーカー。高い技術力を見込まれ、旭化成ホームズと資本業務提携を結び共同研究開発を実施。他団体とも連携し、地域工務店への省エネ技術の講習会や、住宅の燃費基準の標準化、北海道・ニセコ町と提携した街区の開発などにも取組む。早田宏徳が2012年に創業。


ウニノミクス

「海の生息環境を再生し、より住みやすい世界に」がビジョン。世界的に深刻で、海の砂漠化をもたらす磯焼けの原因とされるウニを、閉鎖循環型蓄養施設で専用のエサを与えて飼育し、実入りを回復させて販売する循環型ビジネスの実用化に挑戦している。投資家、漁師、科学者、水産養殖関連業者、レストランと共に、利益を探求し、かつ、世界で委託実験している点もユニーク。


カルティエ・ウーマンズ・イニシアチブ

15年の歴史を持つ、世界的な女性社会起業家向けのアワード。田淵が19年、東アジアの審査員を務めた。審査過程で「ロングタームサステナビリティ」を重視するなど、持続性にフォーカスを当てた点に注目している。そうした起業家を讃え、よい社会をつくるという思いは、いいビジョンだ。同アワードは、カルティエとINSEADビジネススクール、マッキンゼー・アンド・カンパニーによって設立。


オミダイア・ネットワーク

eBay創設者のピエール・オミダイアが創設した営利団体にも非営利団体にも資金を提供する組織。オミダイアは、いわゆるかつてのシリコンバレーのテック起業家で、オミダイア・ネットワークはZebras Uniteを支援。インパクト投資の啓蒙などをしてきたが、インターネット黎明期のようなシリコンバレーを取り戻すという趣旨の発言をし、「テックの本来のあり方」を模索している。


日本GR協会

「地域課題解決のための良質で戦略的な官民連携(GR、ガバメント・リレーションズ)」の推進を掲げる一般社団法人。陶山も理事として関わって2020年1月に設立され、GRの必要性を「広めること」、GRの成功事例や失敗事例を「学べること」、GRプレーヤー同士がセクターを超えて「繋がれること」を目的として活発に活動している。代表理事は元横須賀市長の吉田雄人。

構成=フォーブス ジャパン

この記事は 「Forbes JAPAN Forbes JAPAN 8月・9月合併号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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