専門家が指摘、新型コロナウイルスで家族を失った人に心のケアを

Photo by John Moore / by Getty Images

米国で新型コロナウイルス感染症による死者数が増え続けるなか、家族を失って悲しみに暮れる遺族のメンタルヘルスをめぐって、懸念の声が上がっている。

ペンシルベニア州立大学が新たに実施した研究によると、新型コロナウイルス感染症で1人が死亡すると、それに伴って影響を受ける遺族の数はおよそ9人であるという。そうした「親族ネットワーク(kinship network)」に含まれるのは、祖父母、両親、兄弟姉妹、配偶者、子どもだ。

この研究を行ったのは、ペンシルベニア州立大学の社会学と人口統計学の准教授で、社会データアナリストのアシュトン・ヴァーデリー(Ashton Verdery)准教授だ。同大学の人口研究所(Population Research Institute)とコンピュテーショナル・アンド・データ・サイエンス研究所(Institute for Computational and Data Sciences)に所属するヴァーデリーは、遺族が被る影響を大局的な視点からとらえている。

「仮にウイルスで19万人が亡くなったとすると、170万人が、近しい親族を失った遺族になる」とヴァーデリーは説明する。「パンデミックがもたらしうる影響の大きさを、感覚的に理解することは非常に役に立つ。それは、雇用主側が会社の家族休暇や有給休暇の方針に目を向けるきっかけにもなる。連邦政府にとっても、育児介護休業法(FMLA:Family and Medical Leave Act)を拡大すべきかどうかを考えさせるものになるかもしれない。家族の世話にも支障をきたす可能性がある。たとえば、祖父母が家事を担う家庭で育つ子どもたちが多くおり、影響を受けるだろう」

「比較的若いとみなされる年代の親をウイルスで亡くす可能性のある人は、相当な数に上る。また、50代から60代の配偶者を失う人もかなり出てくるだろう」

複数の家族を失う悲しみ


研究では、ひとりの死亡者がどれだけ多くの遺族に悲しみを与えるかという点を指摘すると同時に、広範囲に及ぶパンデミックの性質上、ひとりどころか複数の親族を失くす可能性があることにも触れている。

悲しみと喪失の専門家デヴィッド・ケスラー(David Kessler)はこう話す。「何人もの人に一度に先立たれると、悲しみを受け入れる道のりは、とてつもなくつらいものとなる。誰かが亡くなったと聞いたとき、それが遺族の経験する初めての死ではない可能性があることを、私たちは見落としがちだ。痛ましいことに、先立たれるのはそれが最後ではないかもしれない」

ケスラーは、新型コロナウイルス感染症で家族を失う悲しみは、これまでの状況とは異なっていると指摘する。「私たちが目の当たりにしているのは氷山の一角にすぎない。大切な人を亡くしたのに、別れを言うこともできなければ、葬儀も行えず、皆で悲しみを分かち合うことができないという状況は、これまでないものだった。死を健全に悼むためにはコミュニティが必要だ」
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翻訳=遠藤康子/ガリレオ

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