経済・社会

2020.07.26 12:30

無実なのに自白 孤独だった美香さんを救った恩師たちの証言 |#供述弱者を知る

連載「#供述弱者を知る」サムネイルデザイン=高田尚弥


美香さんの中学時代の行動 いま振り返ると


取材班が動きだした時、恩師たちの活動はすでに4年が経過していた。
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2017年1月、角雄記(37)と井本拓志(31)の両記者が西山さんの障害の可能性を問い合わせるため、伊藤さんと吉原さんに会った。中学校当時の西山さんの問題行動を、障害の知見を得た今の視点でどう見るか。現場経験が豊富な教育者の客観的な視点は、障害を立証する有力な証言になる、と考えた。

西山さんが虚偽自白した経緯について、2人は「あり得ると思う」との見方でほぼ一致していた。

「人と接するのが苦手でうまく伝えることができない。彼女の性格上、やっていないのに認めてしまうのでは、と思った。上からガーンと強烈に言われたら、そのように言ってしまうところがある」(伊藤さん)
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「アラームが鳴った、と言うと刑事が優しくなり、職場の不満まで話すようになる一方で、自分のせいで同僚の看護師が厳しい取り調べを受けることになって、今度は『私がやりました』と軽く言ってしまったところは、彼女らしい」(吉原さん)

教え子を知る恩師ならではの的確な指摘だった。当時の行動について、いまなら発達障害だと考えるのではないか、との見方も、元教師らの間でおおよそ一致していた。

障害の視点から冤罪の可能性を問う報道に向けて、着実で大きな一歩だった。

「正々堂々と人生を送って、幸せになって」


それから3年が過ぎたことし3月31日、大津地裁の正門前で再審無罪に涙する教え子を見守る彼らの姿があった。

西山美香さん無罪判決
3月31日無罪判決を支援者に報告する西山美香さん。「無罪」の垂れ幕を持っているのが恩師の伊藤正一さん=Forbes JAPAN撮影

「美香さん、よく頑張りました!」

かつて生徒指導担当だった伊藤さんは、支える会の代表としてマイクを握り、涙声で40歳になった西山さんを褒めた。まるで25年前の中学時代にタイムスリップしたような感動的なシーンだった。懸命に努力した生徒を短い言葉ながら、力強く、心の限りたたえる教師らしい言葉が、ほほえましかった。

「何としてもこの冤罪を晴らしたいと思って活動を続けてきて、ようやくこの日が来た」

7年の活動を振り返りつつ、伊藤さんは「美香さんには、正々堂々と人生を送って、幸せになってほしい」と脇に立つ教え子に語りかけた。そして、15年9カ月の長きにわたって教え子に辛苦を強いた者たちへの激しい怒りと非難の言葉が続いた。

「美香さんの人生の大切な時期を奪った取調官や検察官、真実を見抜けなかった裁判官には、強い怒りを感じます」

判決後、地裁近くで開かれた支える会の集会には、長い闘いを終え、ようやく肩の荷を下ろしてほっとする恩師たちの姿があった。卒業して20年近くもたって、それでも助けなければ、という教師としての使命感。その重みから解放された姿に胸が熱くなり、思わず声をかけた。

「先生、教師という仕事には、終わりがないんですね」

元生徒指導で支える会を引っ張ってきた伊藤さんが言った。

「うん、そうだよ。本当に、終わりがない」

教え子を救いだすため、現役を退いた元教師たちが手弁当で走り続けた7年に及ぶ支援活動は、感無量の思いとともにひとまず幕を下ろした。

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文=秦融

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