ビジネス

2020.07.22

サウナと自然と働く。エストニア「リモートワーカー向けビザ」がつくる未来の働き方


サウナ、森、快適な夏



エストニアのサウナと目前に広がる湖(筆者撮影)

ここでエストニアの住環境についても触れてみたい。

まず物価だが、筆者の肌感では日本の7割程度の生活費で生活を送ることができる。近年物価は上昇傾向にあるが、それでも日本よりは安く、北欧の雰囲気を感じられる環境下としてはお手軽感を覚える。キャッシュレス化も進んでおり、ほぼすべての店舗でクレジットカード・デビットカード決済が可能となっている。

快適な夏の気候、そして美しい自然も魅力のひとつだ。夏の期間は、日中が20度前後と過ごしやすい上に、夏至近くになると日没が23時頃と、日照時間が長い。この期間中、エストニア人は自然を満喫することに全力を注ぐ。週末になれば森やビーチに足を運び、ハイキングや日光浴に勤しむなど「ゆったりとした生活」を送っている人が多い。首都タリンであっても、車を15分も走らせれば森やビーチに行くことができる。

また、公用語はエストニア語だが英語話者も多い。特に首都タリンでは、ほぼすべての飲食店やビジネスシーンで英語が通じ、不便することは少ない。ただし、一部のスーパーマーケットや、地方では英語が通じないこともある。

なお時差に関しては、サマータイム時に6時間、冬季は7時間だ。これは働き方に依存しそうだが、エストニアの午前と日本の午後で勤務時間が被るため、ミーティングなどを午前中に設定することでやり繰りをすることは可能だ。

このように、エストニアは北欧や西欧の雰囲気を堪能することができながらも、物価が比較的安い。それでいて美しい自然に囲まれながら、ゆったりとした時間を満喫できる「チルアウト」な生活を送ることができる国だと、筆者は感じている。

一方で負の側面もある。

まず、夏が明るくて涼しい分、冬は暗く厳しい。特に12月〜2月は首都タリンでもマイナス20度まで冷え込むことがある上、冬至の時期は一日の日照時間が6時間と、太陽を目にする機会がぐんと短くなる。紫外線不足が一因とも言われている冬季うつ病は社会問題にもなっている。


冬の旧市街の様子(筆者撮影)

とはいえ、ほとんどの建物ではセントラルヒーティング(中央管理の暖房)が完備されているため部屋全体が暖かく、「シャワー後に脱衣所で凍えながら体を拭く」なんてことはない。むしろ、エストニアにはサウナ文化が根付いており、特に冬の時期はサウナに足繁く通う人が多い(サウナ備え付けの家も日本より遥かに多い)。

娯楽が少ない点にも触れておくべきだろう。たとえばナイトクラブなど、若者が遊ぶエンターテインメントの選択肢は少なく、そういった娯楽を求めてベルリンやロンドンに行く若者もいる。特に冬はイベントが少なく、アクティビティも制限されるため、家に籠もる人が多い。エストニアはビールの醸造が盛んで、バーに行けば地ビールやウォッカを楽しむことができるが、それでも「毎晩遊び歩いていたい!」という人には物足りないだろう。

これ以外にも、デジタルなイメージと反して実生活はアナログな面が多い点、薬物中毒者が少なくない点、二拠点生活をすることで税申告が複雑になる点などデメリットはある。許容できる点・できない点を総合して、住む場所を選定するべきだろう。
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文=齋藤アレックス剛太

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