中国のコロナ封圧の舞台裏を探る書籍『新型コロナVS中国14億人』

新型コロナウイルス検査(武漢、3月14日)(Feature China/Barcroft Media via Getty Image)


中国人たちは「政府をあてにせず、自分たちで情報を探し、共有し、新しいスタンダードを自ら作り出そうと動き出す」と浦上さんは書いている。その勢いに乗ったのが、アリババやテンセントであり、民間企業である両社のアプリで運用されている「健康コード」と呼ばれるプラットフォームに人々はデータを差し出し、厳しい都市封鎖の中で移動の自由を手にしていった。

さらに、武漢市の郊外に10日間という超突貫工事で建設された巨大病院では、医師たちがAI(人工知能)と5Gネットワークを駆使して重症患者らを救ったが、その舞台裏では、実家の父の訃報を聞いた看護師が「今は戻れない」と同僚の前で泣き崩れたり、WeChatのグループチャットで音楽や暇つぶしコンテンツを共有して励まし合ったといった物語があった。

1998年に早稲田大学を卒業し、西日本新聞に就職した浦上さんは、2010年に7歳の息子を連れてシングルマザーとして中国・大連に渡り、現地の大学で学んだ。中国では制度やルールが突然変わるのが日常茶飯事で、不安定が常態化しており、だからこそ「非常事態」にも短期間で適応できたのだという。

もちろん中国には中国ならではの問題が多々あり、感染者の隔離施設とされたホテルが倒壊し、三十人近くが亡くなる悲惨な事故も起きた。しかし、中国が輸出したマスクに大量の粗悪品が紛れ込み、送り返されたという事象を笑い、溜飲を下げるのはお気楽すぎると筆者は指摘する。

かつて新聞メディアの衰退を横目にしながら記者時代を送り、数年前から執筆の場をインターネットに移した浦上さんは、「今の日本と中国の関係は、新聞社とインターネットの関係に似ている」と指摘する。大手メディアは今もまだ、かろうじてブランドを保っているが、ネットメディアは旧勢力のビジネスを揺るがしている。

その姿は、ここ10年ほどで急速にテクノロジーを発展させ、日本の大手を凌ぐようになった中国企業の姿と重なるように見える。

この書籍はこれまでネットの「短距離走」専門でやってきた筆者が、今回初めて書籍という「長距離走」にチャレンジした結果だという。「中国を嫌いな人にこそ、この本を読んでほしい」という思いが出来るだけ多くの人に届くことを祈りたい。

文=上田裕資

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