米科学アカデミー紀要(PNAS)に7月6日に発表された研究結果によれば、感染した人の50%以上が、無症状の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者から感染していたとみられる。
また、米疾病対策センター(CDC)が7月17日に発表した「Morbidity and Mortality Weekly Report(罹患率と死亡率に関する週報)」によると、便宜的標本とした症状がある感染者164人のうち、20%には発熱がみられなかった。つまり、感染した人のうち発熱の症状が出る人は、40%に満たないという計算になる。
2つ目の問題点は、発熱があってもSARS-CoV2に感染しているわけではない場合があることだ。発熱を伴う感染症は、インフルエンザや肝炎、マラリア、ノロウイルスなど、ほかにも数多くある。また、関節リウマチやクローン病などの炎症性疾患でも、発熱の症状が出る。
また、身体活動と気温は体温に影響を与えていると考えられる点も問題の一つとして挙げることができる。時間生物学ジャーナル「Chronobiology International」に掲載された研究結果によれば、体温は1日、1週、1年ごとのサイクルで変動しているとみられる。1日のうちでは午前6~8時が最も低く、午後6~8時が最も高くなる傾向があるという。また、体温は冬より夏の方が、わずかに高くなる。
体温に影響を与えるものは、ほかにもある。生体リズム学ジャーナル「Biological Rhythm Research」に発表された論文によると、ある女性の口腔温を30年にわたって毎晩測定し、その結果を分析したところ、体温は月経周期とともに変化し、また加齢とともに低下していた。特に、閉経期にはより大幅に低下していたという。体温には季節による違いもあり、8月が最も高く、2~3月が最も低くなっていたことが分かった。
4つ目の問題は、発熱は“隠せる”ということだ。頭痛、歯痛など何らかの理由でタイレノールのような解熱剤を服用した場合、体温は下がり、同時に発熱があったとしても、その症状は隠されてしまうことになる。
つまり、検温は全般的にみて、感染者の一部をみつけることができるかもしれない一方で、より大勢の感染者を見逃している可能性があるということだ。発熱とその他の症状を確認しているだけで十分に安全だという人がいれば、その考え方には疑いを持つべきだ。
たとえば、フォーブスの寄稿者ニーナ・シャピーロは最近の記事のなかで、毎日体温をチェックするだけでは、学校を再開させた場合の安全性確保のための基準として不十分だと指摘している。COVID-19の感染拡大を防ぐには、ソーシャルディスタンス(社会的距離)の確保を含め、いくつもの対策を同時に講じなければならない。そのことを忘れてはいけない。
検温を行い、その他の症状を確認したとしても、人との間に1.8m以上の距離を取る必要がなくなるわけではなく、積極的にその場にある物を消毒したり、すべての人がマスクを着用する必要がなくなったりするわけではない。一つの対策だけでは、決して十分な対策になることはない。