6月初旬にオンライン取材を申し込むと、15日、本人から直接メールがあった。リンク先には、彼女が通常市民からオフィス訪問を受けるときの原則が書かれており、主に会議は録画もしくは録音され、後日、動画もしくは文字の書き起こしでサイトに公開されるというものだ。大臣としての公務のすべてを市民にオープンにするためだという。
毎日早朝からの公務が続くも、本人は公職にあることを楽しんでいるようだった。「公職にいることは満足してます。いま、台湾のパブリック・サービスはとても革新的なんです。総統杯ハッカソンでは、参加者の3分の1がパブリック・セクターからです。どんどん面白いアイデアが出てきます」
総統杯ハッカソンとは2018年から毎年行われている、社会課題解決のアイデアをプレゼンする大会で、受賞すれば、蔡英文総統から規制の優遇や以後12カ月での実装が約束される。例えば昨年度は、台湾南東沖の周囲約40kmの孤島、蘭嶼での遠隔医療のアイデアが採用され、オンライン診療の規制も緩和された。予算もつけられ、現在では僻地を含む約100の地域で実現されている。
2014年春の大きな出来事
市民ハッカーであったオードリー・タンが、35歳という若さで台湾のデジタル大臣(無任所)に就任したのは、4年前の16年のことだ。しかし、公職への道に進んだきっかけは、14年の春にさかのぼる。
14年3月18日、台北市の立法院周辺は、学生を中心とした多くの市民で埋め尽くされていた。与党国民党が中国とのサービス分野の市場開放を目指す「サービス貿易協定」を立法院の内政委員会で審議終了、本会議送付を強行した。これをきっかけに、抗議する学生が立法院本会議場に突入、台湾史上初めて市民によって議場が占拠された。「ひまわり学生運動」だ。当時の報道によれば、市民の間では、法案の内容だけではなく、その決定プロセスの不透明性にも不満がうずまいていた。
2014年3月29日、台北市の中正紀念堂前に集まり、「サービス貿易協定」の審議に抗議する大勢の人たち。当時の報道によれば、約50万の人々がデモや抗議運動に参加した
タンは当時、プログラマーとして米シリコンバレーのチームや企業とバーチャルで仕事をしていたが、議会周辺で起こっているただ事ではない状況を見て、同僚にこう書き送った。「議会に行くので、2週間ほど仕事を休まなければならない」
タンは、市民ハッカーとして、台湾のシビックテックの団体g0v(ゴブゼロ)のメンバー数百人と、自身の電話を議会内外のインターネット接続のために提供し、議会内で起こっていることの中継を手助けした。「私たちは、すべての人を公正につなぐ“コミュニケーション・エキスパート”の役割を担いました」
その後約3週間にわたって議会は占拠されたが、4月10日に占拠者は議場を退去、運動は比較的平和的に収束した。