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これが、彼女が選挙権を得る6年前、人生で初めて知った民主主義のシステムだった。アジア・ソサエティのNY講演(18年9月)で、こう話す。

「前世紀のガバナンスは二つの対立する価値、例えば『環境』と『経済発展』といった価値を代表する組織や団体をつくり、その間で調整して妥協するものだった。でも、ソーシャルメディアの登場や、ハイパーコネクテッドワールドにおいて、そのやり方は破綻した。的確なハッシュタグで、数万、数十万の人々がどこからともなく組織される。政府や法律では、それら多数の、または緊急の問題について対応することは不可能です。旧来のやり方では、多くの緊張が生まれてしまう」

彼女が実践するデジタル、または協働ガバナンスは、インターネット・ソサエティから学んだことだ。人々を利害で組織する代わりに「異なる立場であるが、合意できる共通の価値は何か」といういくつかの問いかけを行うのだ。もし合意に至ることができれば、すべての人にイノベーションを提供することができる、タンはそう語る。

現在大臣になった彼女はvTaiwanと同じような機能を持ち、パブリック・サービスによって運営される「Participation Officers Network」や中央政府の官僚や地方自治体の職員を引き連れ、普段、直接的にもインターネットでもつながりの薄い地方や僻地を回ってタウンホールミーティングを開催する「ソーシャル・イノベーション・ツアー」を行っている。どこにも属さない無任所大臣の彼女は、オープン・ガバメントという使命と同化し、ひまわり運動のときと同じように、人々の分断や不確実性、疑いを軽減するために走り回る“コミュニケーション・エキスパート”なのだ。


台北市内のソーシャル・イノベーション・ラボで執務するオードリー・タン。各省庁から派遣されているスタッフと、シビックテックの人たちが一緒に働いている。週に一日は、地方を巡る

そのパッションはどこから来るのだろうか?

「基本的には楽しさのオプティマイズ(最適化)です。すべての人に、公的なものごとに参加してもらって、面白いと感じてほしい。1922(※台湾版CDCの無料電話相談)に電話して、『ねぇ、明日みんなでいじめられた小学生のために、ピンクのマスクを着けてきたら?』と提案して、本当に次の日閣僚たちがつけてきたら面白いですよね? みんな元気づけられる。その楽しさは、ひとりの楽しさとは全然違う。コレクティブ・インテリジェンスは、個人的なものよりも、はるかに楽しいんです」

インタビューの最後に、次世代の若者へのメッセージをお願いすると、彼女の好きな詩を引用して、こう語ってくれた。

「『There is a crack in everything and that’s how the light gets in(すべての物にはひびがある。そして、そこから光は入る)』。世界は完璧ではありません。私たちの行動が、生態系を壊すこともある。自然界、人間界のシステムの構造的な問題に、一緒に取り組むことができる。それが、私たちがここにいる理由です。欠陥は、あなたが貢献するための招待状です」


オードリー・タン(唐鳳)◎1981年台湾生まれ。15歳で中学を中退し、プログラマーに。2016年、35歳の若さで行政院に入閣、無任所閣僚の政務委員(デジタル担当)に。15歳の転機の心境について「(教師に対して)感謝の気持ちもありましたが、同時に責任も感じました。自分の人生や、自らの決断に、責任を持つようになりました」と語る。

文=岩坪文子

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