ビジネス

2020.07.22

「ヒューマンオートノミー」の社会実装で もっと人は自由に生きられる

連続起業家・投資家 孫泰蔵


次は、VUILD代表取締役の秋吉浩気さんです。

秋吉:3D木材加工機の輸入販売と建築デザイン、そして家具や建築部品を簡単に出力できるWEBサービスの提供をしています。木材の生産地に加工機を置くことで、地域の中で材料調達から維持管理まで行う、自走する経済循環を生むことを実現しました。都市から地方へのトップダウン的な流通ではなく、良質な素材を適切に使った地方発の「産地直“造”」型の家具が生まれます。

:現代は「分業」の時代です。病気は病院に、手続きは役所にと、人々は移動をします。だから、都市にはいろんなものが集まってきて便利になるのです。

しかし、都市は人が密集していて、感染症に弱い。匿名性も高く、誰がどこで感染したかわかりません。そのせいで、今回も都市機能全体をシャットダウンする議論になりました。彼らの事業は、進み過ぎた分業を、技術の力でもう一度自分たちの手に取り戻す試みです。

続いてaba代表取締役社長の宇井吉美さんです。

宇井:服を脱がせなくても排泄がわかるベッド用のセンサーシート「Helppad」を手がけています。排泄センサーシートで要介護者の排泄を把握するだけでなく、生活パターンも把握することで、いつ介護者が介入するかを最適化しようとしています。技術を生かして誰でも明日から介護ができる社会をつくりたいです。

レジリエンスのために


:ここ数年で見ても、想定外の大災害がほぼ毎年来るようになりました。そこで必要なのがレジリエンス(回復力)。例えば、介護のように、何かの技術が突発的に必要になることがあります。専門知識が必要な部分もありますが、できるだけ参入のハードルを下げていく。それを助けるのがテクノロジーです。abaのような事業がレリジエントな社会への鍵になりそうです。

次はPLANTIO共同創業者/CEOの芹澤孝悦さんです。

芹沢:IoTやAIを下支えとして、みんなで楽しく野菜を育てるアグリテイメントをモットーに、ベランダやビルの屋上に菜園をつくったり、野菜を育てている土に挿すことで、ユーザーに水やりや収穫の時期を教えてくれるハードウェアを開発しています。欧米ではすでに進んでいる、野菜について「買う」以外の選択肢を日本に広めていきたいです。

:食は人間の生活の中でも一番大切なことです。現代は、サプライチェーン・物流網が発達して、安く、早く、世界中から物が届くようになりました。ただ、シャットダウンされると届かない。私たちが生きていくために必要な物は、それではいけません。自分たちでつくる力を取り戻すことが重要でしょう。


VUILD◎米国産3D木材加工機「ShopBot(ショップボット)」の輸入販売と住宅・建築の設計施工業務、在宅で建築ものづくりを可能とするソフトウェア「EMARF 3.0(エマーフ 3.0)」を提供。デジタル・ファブリケーションによるものづくりの民主化をすすめ、建築産業の変革を目指す設計集団。材木の生産地など、地方発の経済循環を生むことに注力し、地方創生、雇用創出にも取り組む 

aba◎ベッド上に敷くだけで服を着たままでも排泄を検知できるシート型のセンサー「Helppad」を、パラマウントベッドと共同開発。排泄を通知するだけでなく、排泄時間や状態などのデータを蓄積するwebアプリも開発している。自身が介護者になった経験から「明日から誰でも介護ができる社会」を標榜する。体への負担やコストを抑え、入居者、介護者、事業者のすべてが満足するシステムを目指す。

PLANTIO◎エンターテインメントを通じた食の民主化を目指しアグリカルチャーのSaaS型プラットフォーム「grow」を運営。家庭のベランダなどに設置できるIoT+AIプランターをはじめ、オフィスやマンションの屋上などにIoT+AIのフィールド(畑)を展開。近隣の飲食店とも連携し、あらゆるところでアグリカルチャーに触れる機会を創出することで、持続可能な食と農の社会実装を進める。

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文=揚原安紗佳

この記事は 「Forbes JAPAN Forbes JAPAN 8月・9月合併号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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