8.物理空間と仮想空間の曖昧化
このパンデミックが私たちにもたらした教訓のひとつは、単に仕事をする目的のためだけではなく、本当の心の繋がりを築くために、コミュニケーションを維持・促進するテクノロジーがいかに重要かということです。今後数年間で、AIテクノロジーにより、人間的なレベルで人と人とが繋がり、物理的に離れていてもお互いを身近に感じられるようになり、この進歩をさらに加速。物理空間と仮想空間の境界線は永遠に曖昧になるでしょう。SXSWからグラストンベリー・フェスティバルまで、多くの世界的なイベントは、単なるライブストリーミングを超え、そこにいるのとまったく同じ体験を提供する完全デジタル化に向かうかもしれません。
しかし、これらのサービスはただ提供するだけでは不十分。消費者から信頼を得るためには、データプライバシーを最優先に考えなければなりません。新型コロナウイルスのパンデミックが始まった当初、ニュースではビデオ会議を提供する企業のセキュリティに対する懸念が多く取り上げられました。この懸念は解消したわけではありません。デジタルコネクティビティが進歩する中、いかなるサービスも、完全な透明性とデータの制御を欠いたものをユーザーに提供することは許されなくなっています。
──トゥッチェ・ブルト氏、ストリートビーズCEO
9. 医療機関中心から個人中心の医療へ
2025年までに、文化、IT、健康の各分野の境界線が曖昧化されていくでしょう。エンジニアリング・バイオロジー、機械学習、シェアリングエコノミーが医療体制を分散化する枠組みを構築し、医療機関から個人へ移行させていきます。
これを後押しにするのは、AIの進化と新しいサプライチェーンのメカニズムであり、それにはエンジニアリング・バイオロジーによって世界中のあらゆる場所にいる個人にシンプルかつ低コストの検査を提供、リアルタイムの患者データを手に入れることが必要です。結果、最も重症のケースのみがその一歩先の治療を必要とするようになり、感染症などの急性疾患における罹患率、死亡率、治療費は減少。入院を要する感染者が減り、疫学は劇的に変化し、医療システムへの負担は軽減されます。そして、診断の低廉化により費用と権限が個人に移行することで、コスト削減と治療の質向上が同時にもたらされ、治療の費用効率も高まります。
これまで切り離すことができなかった健康、社会経済的地位、生活の質の間のリンクがほどけ始め、健康=医療機関へのアクセスとみなすことで存在していた緊張関係は消滅します。日常的なケアからパンデミックまで、これらのコンバージング・テクノロジー(特定の目的を達成するために2つ以上の異なる分野の科学や技術を収れんする技術)は社会経済的要因を変化させ、世界中の人々の健康状態に対する多くの困難を和らげるでしょう。
──ラフル・ダンダ氏、シャーロック・バイオサイエンシズ共同創設者兼CEO
(この記事は、世界経済フォーラムのAgendaから転載したものです)
連載:世界が直面する課題の解決方法
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