全米150万部ベストセラーが日本の「編集者泣かせ」だった理由

世界的ベストセラー作家マルコム・グラッドウェル最新刊(日本語版)『トーキング・トゥ・ストレンジャーズ』

光文社から、世界的ベストセラー作家マルコム・グラッドウェルの最新刊の日本語版『トーキング・トゥ・ストレンジャーズ 「よく知らない人」について私たちが知っておくべきこと』が発売された。担当編集者の小都一郎氏に、本書の魅力について以下、ご寄稿いただいた。


『第1感』『逆転!』『天才!』などの著書で世界的にも著名なノンフィクション作家、マルコム・グラッドウェルの最新刊『Talking to Strangers』が発売されたのは2019年9月。発売後すぐにニューヨークタイムズのベストセラーリストではノンフィクション部門の第1位に輝き、ハードカバー、ペーパーバック、電子書籍も合わせて、アメリカだけで150万部以上売れているという。

6月には日本語版『トーキング・トゥ・ストレンジャーズ 「よく知らない人」について私たちが知っておくべきこと』を刊行することができた(光文社刊)。グラッドウェルの本を担当できることは翻訳書の編集者としては大変名誉なことだ。本書については、なるほど「人間の心」こそ知性が向かうべきところなのだ、ということに感動を覚えるし、グラッドウェルの本の書き方の巧みさに唸らされる。その魅力をちょっと紹介してみたいと思う。

独房で自殺した28歳の女性


いつも「見過ごされているもの、誤解されているもの」を探求しているグラッドウェルが今回注目したのは、2015年7月、テキサス州ヒューストンから80km離れた田舎町プレーリー・ビューで、サンドラ・ブランドという28歳の女性が、軽微な違反で車を止められた事件だ。

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Getty Images

彼女と警官との会話は口論に発展し、彼女は逮捕・収監される。それから3日後、サンドラは独房で自殺してしまった。この事件について、グラッドウェルはこう語っている。

「保守派は『悪徳警察官がいる』という解釈を好み、リベラル派は『偏見に満ちた警察官がいる』という解釈を好む。最後には、両者は互いの主張を打ち消し合ってしまう。この国では、警察官がいまだ人を殺している。しかし、それらの死が大々的に報道されるブームの時期は過ぎた。私たちはある時点でいったん立ち止まり、サンドラ・ブランドが誰だったのかを思いだす必要があったのではないだろうか。しかるべき期間が過ぎると、人々はこれらの論争を脇へと追いやって次の話題に移った。でも私は、次の話題に移りたくはない」
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文=小都一郎

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