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朝日新聞編集委員(朝鮮半島、米朝・日米関係担当)

韓国の文在寅大統領(Photo by Lee Jin-Man-Pool/Getty Images)

9億2000万ウォン(約8200万円)。韓国の市民団体「経済正義を実践する市民連合」が6月に公表した「ソウルの平均アパート(マンション)価格」だ。あくまで平均値で、東京なら港区や目黒区などにあたる南部の江南地域のマンションは2億円、3億円が当たり前だ。この団体によれば、マンションの平均価格は文在寅政権発足時の2017年5月時点での6億600万ウォン(約5400万円)から3億ウォン以上も値上がりした。ソウルの若者たちは「一生、家なんか買えない」と嘆き、絶望している。

どうしてこんな状況になったのか。

東京で働いている40代の韓国の知人に事情を聴いてみた。するといつも寡黙な知人は、このときとばかりに立て板に水を流すように、朗々と話し始めた。以下は知人が「ソウルのサラリーマンなら、みなが知っている常識」として語った内容だ。

知人は幼いころから、「10年経てば、アパート(マンション)の価格は下がり始めるから心配するな」と大人たちに言われて育った。しかし、彼の40年以上の人生のなかで、マンションの価格が下がったのは2回だけだった。1度目は、1997年に起きたIMF危機と呼ばれる外貨枯渇による経済破綻のとき。2度目は、2008年のリーマンショックだった。2回とも、マンションの価格は多少下がったが、すぐに持ち直した。

彼は、スマホを取り出し、「韓国のサラリーマンはみな見ている」という大手ポータルサイトが提供する「NAVER不動産」を見せてくれた。このサイトでは、ソウルのありとあらゆるマンションの位置、世帯数、部屋の見取り図、価格、交通情報などが一目で検索できる。彼がみせてくれた、マンションのここ数年の価格推移を示した折れ線グラフは、どれも激しい右肩上がりを示していた。

なぜ、ソウルのマンション価格は下がらないのか。第1に、供給量が足りないという。ソウル市の住宅全体の供給率は100%を超えている。しかし、知人に言わせれば、所有マンションの供給率はその半分程度に過ぎないという。

韓国の人々はマンション好きだ。もちろん、韓国人が「単独住宅」と呼ぶ一戸建てもある。しかし、それは青瓦台の裏手の城北洞などでみられる超高級住宅か、あるいは再開発直前の地区でみられる昔ながらの古ぼけた民家しかない。韓国人が「ヴィラ」と呼ぶ、比較的低層のマンションもある。内部のつくりはほとんど一般のマンションと変わらない。しかし、ヴィラは単独で建っている場合がほとんどだ。これは韓国人の嗜好に合わない。

韓国人が「アパート」と呼ぶマンションは、どこも団地群を形成している。10棟前後の高層マンションが連なり、総世帯数が1000戸を超えることも珍しくない。団地内には商店街や集会所、スポーツジムなどが備わっている。そこには、似たような生活水準の世帯が集まるため、治安や教育環境にも恵まれているという評価がある。韓国では、昔は「狎鷗亭(アックジョン)の現代アパート」、今なら「道谷洞(トゴクドン)のタワーパレス」が、金持ちの代名詞になっている。

文=牧野愛博

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