若者の地獄 韓国大統領を支持しない意外な理由

韓国の文在寅大統領(Photo by Lee Jin-Man-Pool/Getty Images)


むしろ、ローン限度額を抑えたことで、若者の不満が高まっている。何しろ、この3年間でマンション平均価格は3000万円近く上昇している。若者がその3年間に働いた給与総額に匹敵する額だ。韓国メディアは「もう10年早く生まれたかった」と嘆く、若者の声などを紹介している。ソウルに住む30代の知人に電話で話を聞いたら、「その声は正しい。我々の世代はソウルで家を持てないだろう。みんな絶望していますよ」と教えてくれた。

市民の不満の直撃を受けたのが、文在寅政権だ。韓国ギャラップが7月10日に発表した世論調査結果によれば、文大統領の支持率は47%まで落ちた。新型コロナウイルス対策が評価されて5月初めに支持率71%を記録したころの勢いはまったくみられない。文政権に好感を抱いているとされてきた18歳から29歳までの世代の支持率も46%にとどまっている。

そして、韓国の知人たちは支持率下落の理由について「不動産問題だ!」と声をそろえる。日本の一部の専門家が唱えている、対日政策や南北政策の行き詰まりが原因などではないという。確かに、支持しないという回答者のうち、文大統領を支持しない理由として、不動産を挙げた人は25%にのぼり、2番目の理由を挙げた人(11%)の倍以上を記録した。外交問題を挙げた人はわずか1%に過ぎない。

文在寅大統領は16日、国会開会にあたっての演説で「現在、最大の民生立法課題は不動産対策だ」「政府は投機抑制と住宅価格安定のために必要な全ての手段を取る」と訴えた。だが、韓国ギャラップ調査での「最も有利な財テクは何か」という質問に対し、「アパート(マンション)」と答えた人が最も多い36%だった。06年6月調査時点での19%を大きく上回り、文政権の政策が功を奏していないことが浮き彫りになった。「今後1年間で家の価格はどうなるか」という質問に「上がる」と答えた人は61%。「下がる」と答えた12%の5倍以上に達した。

もちろん、韓国の人々はマンション価格が暴落することは望んでいない。そんなことになれば、日本のバブル経済崩壊のような事態にならないとも限らない。前出の40代知人は「一番良いのは、このままアパート(マンション)の価格が高止まりして安定してくれることだ」と語る。「韓国も人口がこれから減っていく。いつかは不動産価格も下がるはずだ」と話した。

韓国は2018年、1人の女性が生涯に産む子どもの数にあたる合計特殊出生率が0.98になり、データがある1970年以来初めて1を割り込んだ。2100年には、韓国の総人口は現在の半分程度までに落ち込むとみられている。韓国のマンションが手頃な値段で買えるようになったとき、今の若者たちは一体何歳になっているのだろうか。

文=牧野愛博

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