若者の地獄 韓国大統領を支持しない意外な理由

韓国の文在寅大統領(Photo by Lee Jin-Man-Pool/Getty Images)


マンションも、どこにでも建設すれば良いというものではない。ソウルの場合、環境に配慮し、基本的に高層マンションの高さは35階程度に抑えられている。団地内も、建物の密集を避けるため、実際にマンションを建てられる場所は団地の総面積の2割程度に抑えられているという。ソウルではもうこれ以上、マンションを建てる場所がないのが実情だ。

一部には、米軍から返還された後に公園になるソウル中心部の龍山基地の一部をマンション用地として提供すべきだという声がある。ソウル周辺のグリーンベルト(環境保全のための開発制限区域)を指定解除し、マンション用地に回す案も浮上している。しかし、いずれも環境破壊を招くという声もあって、実現は簡単ではない。

そして、マンションは個人が手っ取り早くお金を稼ぐ手段でもある。韓国には昔から、「チョンセ」という制度がある。借り手が入居する際、大家に数千万円規模の敷金(チョンセ)を支払う。大家はこのチョンセを元手に金を稼ぎ、借り手が退去する際には修理費などを除いた残額を返却する。金利が良い時代は、大家はチョンセを銀行に預けるだけで十分な利益を上げていた。低金利の時代では、チョンセとウォルセ(月額の家賃)を組み合わせ、「チョンセで半額払い、残る半額は月決めの賃料を払う」というやり方などで利益を上げている。そもそも、不動産価格は急上昇しているから、転売するだけでも相当な利益を上げられる。

文在寅政権が力を入れているのも、この「マンションを投資の手段」とすることを防ぐ政策だ。政策の仕組みは複雑だが、簡単にいえば、「多住宅者」と呼ばれる2戸以上のマンションを所有する人への課税強化とマンション購入のためのローン貸与額の抑制が柱だ。韓国の市民の間では、「マンションを1戸だけでも購入できたら、それを担保に次々とマンションを購入して稼ぐ」というやり方が流行っていた。昔は、自己資金がマンション価格の1割もあればそれができた。残りを職場ローンや銀行ローンでまかなえたからだ。しかし、今ではローンで補えるのはマンション価格の半分もないという。

また、文在寅政権は大統領府幹部や高級公務員らに、「多住宅者は1戸だけ残して、すべて売り払え」と指示している。韓国メディアによれば、なかには、これが嫌で昇進を拒む公務員も現れ始めているという。ただ、知人によれば、多住宅者の数はそれほど多いわけではない。マンション所有者の7割までが「1戸所有者」で、2割が「2戸所有者」、残る1割が「3戸以上の所有者」で、効果は限られるという。
次ページ > 絶望する若者たち

文=牧野愛博

ForbesBrandVoice

人気記事