メディアが招く分断、新型コロナと向き合う歌舞伎町

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"無駄"が支え合う街、歌舞伎町


読売新聞の記事内に「歌舞伎町で営業する飲食店から文句を言われることもあるらしい」とあるが、文句を言われたことはない。私の知る多くの歌舞伎町の経営者達は決してそんなことを言わない。

お互いに支え合うことが当たり前だからだ。しかし、夜の街という言い方から社交飲食店という言い方に政府が変えたことを鑑みれば、一緒にするなという厳しい意見があることの表れだろう。我々だって、それはわかっている。

歌舞伎町では、ホストクラブから感染者が沢山出ていることを心配してくれる人がほとんどだ。事業者と行政で作った新宿区繁華街新型コロナ対策連絡会の場で、新宿ゴールデン街商店街振興組合の理事長さんの言葉に、涙が出そうになった。

「ホストホストって言われて歌舞伎町にはそれ以外もあるって言う人もいるが、ホストクラブがあって、ゴールデン街があって、キャバクラがあって、パチンコ屋があって、飲食店があって、新しい店も古い店もあって……色んな業種があって、無駄だと思われていることが集まって歌舞伎町だ」

大先輩が、足を引っ張る我々と風評被害を受けている飲食店経営者達がいる前で、そう言ってくれた。どう生きてきたら、そんなに懐深く生きられるのだろうか。どうやったら、そんなに歌舞伎町を愛せるのだろうか。

それが歌舞伎町だ。

歌舞伎町は、誰でも受け入れてくれる街だ。
歌舞伎町は、肩書を捨てて、ただの自分になれる街だ。
歌舞伎町は、理性的に生きることに疲れた人たちが集まる場所だ。


歌舞伎町 / Getty Images

カミュ『ペスト』の登場人物であるコタールのように非日常が日常のような人が社会には一定数いる。そんな人たちが歌舞伎町に多いのは事実だ。刹那的な時間を過ごすことに価値を見出している人が多いのも事実だ。

感染症禍で自分のこれまでの生き方を主張することは、誰もが難しい。しかし、それまで生きてきたこと自体を尊重することを蔑ろにして共生を強要することは出来ない。

スラヴォイ・ジジェクの『パンデミック』によれば、イスラエルの大統領は早急にパレスチナの大統領に連絡したという。リオデジャネイロのギャングたちは休戦協定を結んだという。

連帯をするときではないだろうか。

「人類は同じ船に乗っている」とジジェクはいう。

同じ船に乗っている人は、どんな顔をしているのだろうか?

そんな悠長なことを言っているときではない。そうだと思う。それぞれの人間が、それぞれの場所で、どれだけ他人に思いを馳せられるか? ということが、コロナ禍の今だけではなく、いつだって大事なことなんだと私は思う。

文=手塚マキ

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