コロナと人類の終末──「生煮えな世界」で見えてくるもの

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ITの発展により、「個が揺らぐ」という感覚を実感する機会が増えてきた現代。しかし、システムの中に飲み込まれながらも、確かに誰もが「個」として存在している。

「このまま時代が進んでいくと、未来の世代はシステムの一部としてアイデンティティも最適化されてしまうのではないか、という不安もあります。法規制で社会性が最適化されるのは昔からの習わしですが、今後はテクノロジーによって志向性や思想まで社会に “最適化”される可能性もあります」と森氏は言う。「そんなふうに、システムに絡めとられる人間にはなりたくないですね」と松丸氏も声を合わせる。

もしかすると漁業でいう「オリンピック方式」のような、全体の漁業枠を決められて、その枠に達するまで早い者勝ちでそれぞれの漁船が猛ダッシュで魚を獲り続けるという、「早いものがち、強いものがち、やったもんがち」な時代は終わりを迎えようとしているのかもしれない、と上田氏は指摘する。

対して、松丸氏もこのように言う。「今後は、変わらなければという気持ちと、元に戻りたいという気持ちが人々のなかで拮抗し、世の中に徐々に温度差が広がっていくのではないか、と考えます」。

今回のウイルスの出現により、色々なものが試しやすい世の中になってきたことも確かだ。その中で小説も含め、これから先どのような新しいものが生まれてくるのか、期待しているような、怖いような、複雑な感情に苛まれる。

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森健◎1968年東京都生まれ。早稲田大学法学部卒。2012年『「つなみ」の子どもたち』で大宅壮一ノンフィクション賞、2015年『小倉昌男 祈りと経営』で小学館ノンフィクション大賞受賞。

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上田岳弘◎1979年兵庫県生まれ。早稲田大学法学部卒。2013年『太陽』で新潮新人賞、2015年『私の恋人』で三島由紀夫賞、2019年『ニムロッド』で芥川龍之介賞受賞。

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松丸淳生◎1971年東京都生まれ。一橋大学社会学部卒業。『BART』『週刊プレイボーイ』『UOMO』の雑誌を経て、2018年より現職。

文=長谷川 寧々 編集=石井 節子

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